最新記事

アメリカ

解放ムードにお祭り騒ぎ──「コロナ収束を信じたい心理」が強すぎるアメリカ

THE PRICE OF COMPLACENCY

2022年6月8日(水)16時25分
フレッド・グタール(本誌記者)

220614p40_CTA_02v2.jpg

共和党のロムニー議員は追加支出に難色を示した STEFANI REYNOLDSーPOOLーREUTERS

死者を減らすのは「投資」

ウイルスの変異は制御できなくても、備えを固めることはできる。委員会に参加したミネソタ大学感染症研究・政策センターのマイケル・オスターホルム所長によれば、最悪のシナリオの犠牲者数に10万~30万人と大きな幅があるのは、その数が国の対応に左右されるからだ。

検査、抗ウイルス薬、ワクチンが行き渡るようにしっかり予算を組んで対策を立てるか。それともコロナ疲れに屈し、流行が収束したふりを決め込むのか。20万人の命運を握るのは国だ。「投資が大きいほど死者は減る。この点に疑問の余地はない」と、オスターホルムは言う。

今後、ウイルスが猛威を振るうかどうかは分からない。だが最悪を想定せずに明るいシナリオを信じるのが無謀なことは、ウイルスの動きを振り返れば分かる。昨年夏はデルタ株の感染拡大で死者が増え、1月には感染力の強いオミクロン株が広がった。「専門家なら『ウイルスとの賭けに勝てると思うな』と忠告するはずだ」と、オスターホルムは言う。

長期的な不安もある。人々が過去2年間に目の当たりにした公衆衛生制度の脆弱さを忘れ、現状に甘んじることだ。この国は公衆衛生を抜本的に見直し、他の先進国のレベルに引き上げることが求められている。

このような抜本的見直しは、新型コロナのパンデミックだけでなく、別の新たな感染症や生物兵器といった生物学的脅威に対する「保険」としても機能するはずだ。近年、低コストの遺伝子操作法の驚くべき進歩によって後者の脅威は増している。

見直しのコストは、いまホワイトハウスと議会が争っている数十億ドルよりもはるかに大きくなりそうだ。先述の報告書によれば、公衆衛生のインフラ整備に1000億ドルの初期支出が必要で、その後も体制維持に毎年約200億ドルがかかるという。

1000億ドルは大金のようだが、何もしない場合のコストに比べれば、わずかなものだ。

楽観的シナリオの落とし穴

バイデン政権が従来のパンデミック対策を継続するために求めている額は、もっと控えめだ。その中には、現在開発中のオミクロン特化型を含むブースター接種用ワクチンの購入費、無保険者の検査、治療、ワクチン接種を行う臨床医への補償、抗ウイルス薬の購入費、現行の検査態勢の維持、あらゆる変異株に有効なワクチン開発への投資などが含まれる。

共和党はこうした対策への追加支出に反対し、既存の新型コロナ対策予算の使い残しを活用すべきだと主張している。この場合、各州に支出した資金を回収する必要があり、民主党は現実的ではないとみている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

世銀とIAEA、途上国の原発開発で協力 運転期間延

ワールド

フィリピン、25年の成長率目標を5.5─6.5%へ

ワールド

中国軍、戦闘即応態勢強化へ 台湾総統の「1つの国」

ワールド

アングル:米のイラン攻撃、決断の背後に「トランプ・
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 5
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 9
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中