最新記事

進化

気候よりも都市化が地球規模での生物進化に影響を及ぼしていた 

2022年5月9日(月)11時47分
松岡由希子

トロントのシロツメクサは、トロント郊外の農地や森林に囲まれたエリアよりも東京のシロツメクサとよく似ている...... Junichi Yamada-iStock

<都市化が地球規模で生物進化にも影響をもたらしていることが明らかになった>

人類は都市を開発してその環境を絶えず変えているのみならず、都市化が地球規模で生物進化にも影響をもたらしていることが明らかとなった。

加トロント大学ミシサガ校の進化生物学者を中心に、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター(FSC)の内海俊介准教授や安藤義乃学術研究員らも参画する国際共同研究チーム「グローバル・アーバン・エボリューション・プロジェクト(GLUEプロジェクト)」では、世界各地の都市部で広く生息するシロツメクサを用い、都市化による生物進化について研究している。2022年3月17日、学術雑誌「サイエンス」で初めて研究論文が発表された。

matuoka20220509bb.jpgグローバル・アーバン・エボリューション・プロジェクト

遺伝的特徴や気候よりも、都市化の環境変化が大きな影響を及ぼす

研究チームは、トロント、豪メルボルン、独ミュンヘン、東京など、世界26カ国160都市から採取したシロツメクサのサンプル11万19本を分析し、都市部の環境変化によって平行的に類似した進化が地球規模で起きているのかどうかを調べた。

都市部で生息するシロツメクサは、気候によらず、近郊の農地や森林よりも遠く離れた別の都市部のシロツメクサと似ていた。たとえば、トロントのシロツメクサは、トロント郊外の農地や森林に囲まれたエリアよりも東京のシロツメクサとよく似ている。

これは、特定の形質への同じ選択圧によって異なる場所でそれぞれの個体群が形成される「平行進化」だ。各地域の個体群の遺伝的特徴や気候といった自然現象よりも、人類による都市化に伴う環境変化のほうが、このような形質の形成に大きな影響を及ぼしていることを示している。

研究チームは、水ストレス耐性の向上や植食者(植物を食べる動物)に対する防御機構としてシロツメクサが生成するシアン化水素に着目し、適応の基盤となる遺伝的基盤や進化を促す環境要因についても調べた。その結果、都市部のシロツメクサが生成するシアン化水素は田舎のシロツメクサよりも44%少なかった。都市部での植食者の存在や水ストレスの変化が田舎とは異なる適応をシロツメクサに促したと考えられる。

「人類が生物進化を変えていることを裏付ける」

研究論文の筆頭著者でトロント大学ミシサガ校の博士課程に在籍するジェームズ・サンタンジェロ氏は「人類が都市を深く変え、その環境や生態系を著しく変化させてきたことは長年知られている」としたうえで、今回の研究成果について「この現象が同じような方法で地球規模で起こっていることを示すものだ」と述べている。

また、研究論文の責任著者でトロント大学ミシサガ校のマーク・ジョンソン教授は「都市は人類が暮らす場所であり、このことこそ、人類が生物進化を変えていることを裏付ける証拠だ」とし、「生態学者や進化生物学者のみならず、社会にとって重要になるだろう」と指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中