中絶「合憲」覆す草案のリーク、米最高裁の保守・リベラルのきしみ鮮明に
米最高裁が、中絶を合法化した重要判決を覆す方針がリークされたことは、威厳のある物静かな組織だった同裁内部にきしみが生じていることを如実に示した。トランプ前政権下で過半数を占めるようになった主張の強い保守派が、幅広い主要課題について法の変更を狙っていることがその原因だ。写真は最高裁判事9人、2021年4月にワシントンで代表撮影(2022年 ロイター)
米最高裁が、中絶を合法化した重要判決を覆す方針がリークされたことは、威厳のある物静かな組織だった同裁内部にきしみが生じていることを如実に示した。トランプ前政権下で過半数を占めるようになった主張の強い保守派が、幅広い主要課題について法の変更を狙っていることがその原因だ。
最高裁が長年をかけて勝ち取ってきた政府の成熟した支部という評価が今、崩れ落ちようとしている。超党派の組織であるはずの同裁を、中絶問題以外にも数々の論争が取り巻いている。
最高裁判事は現在、保守派6人、リベラル派3人の構成だ。
保守派のクラレンス・トーマス判事は、声高なトランプ氏支持者である妻の役割を巡って民主党から批判を浴びている。妻は、トランプ氏が大規模な不正投票があったという虚偽の主張に基づいて2020年の大統領選挙結果を覆そうとしたことも支持している。
トランプ氏が任命した判事3人の1人、ニール・ゴーサッチ氏は新型コロナウイルスのオミクロン株がまん延していた1月、法廷でただ1人マスクを着けなかったことを追求された。リベラル派判事の若返りにつながる同派高齢判事、スティーブン・ブライヤー氏の退任が1月に明らかになった際には、法廷が承認を遅らせる場面もあった。
約50年の歴史を持つ中絶合法化の「ロー対ウェード」判決を覆す保守派判事の草案がリークされるという前代未聞の出来事について、シカゴ・ケント・カレッジのキャロリン・シャピロ法学教授は懸念を示す。「この機関の長年の規範が強いプレッシャーにさらされているのは確かなようだ。この国が経験している二極化が、法廷内でも同様に起きているらしい」と語った。
誰がリークしたかは公開されていないが、こうした草案にアクセスできる人の数は比較的少ない。
ジョン・ロバーツ最高裁長官は3日、内部調査を行うと発表した。
リークと無縁だった法廷
ノートルダム大学法科大学院のリチャード・ガーネット教授は「裁判所の職員もしくはメンバーが、司法の守秘義務に関する明確なルールを侵害することは、非常に大きな問題だ」と述べた。
ホワイトハウスや議会では常に、各党派が自らの目的を達成しようとリーク合戦を繰り広げている。しかし法廷は長年、そうした動きとは無縁だった。何十年もの間、司法は政治を超越しており、思想的な違いがあってもお互いの友好関係を保っている、というフレーズが繰り返されてきた。