最新記事

米司法

中絶「合憲」覆す草案のリーク、米最高裁の保守・リベラルのきしみ鮮明に

2022年5月8日(日)10時12分
米最高裁判事の9人

米最高裁が、中絶を合法化した重要判決を覆す方針がリークされたことは、威厳のある物静かな組織だった同裁内部にきしみが生じていることを如実に示した。トランプ前政権下で過半数を占めるようになった主張の強い保守派が、幅広い主要課題について法の変更を狙っていることがその原因だ。写真は最高裁判事9人、2021年4月にワシントンで代表撮影(2022年 ロイター)

米最高裁が、中絶を合法化した重要判決を覆す方針がリークされたことは、威厳のある物静かな組織だった同裁内部にきしみが生じていることを如実に示した。トランプ前政権下で過半数を占めるようになった主張の強い保守派が、幅広い主要課題について法の変更を狙っていることがその原因だ。

最高裁が長年をかけて勝ち取ってきた政府の成熟した支部という評価が今、崩れ落ちようとしている。超党派の組織であるはずの同裁を、中絶問題以外にも数々の論争が取り巻いている。

最高裁判事は現在、保守派6人、リベラル派3人の構成だ。

保守派のクラレンス・トーマス判事は、声高なトランプ氏支持者である妻の役割を巡って民主党から批判を浴びている。妻は、トランプ氏が大規模な不正投票があったという虚偽の主張に基づいて2020年の大統領選挙結果を覆そうとしたことも支持している。

トランプ氏が任命した判事3人の1人、ニール・ゴーサッチ氏は新型コロナウイルスオミクロン株がまん延していた1月、法廷でただ1人マスクを着けなかったことを追求された。リベラル派判事の若返りにつながる同派高齢判事、スティーブン・ブライヤー氏の退任が1月に明らかになった際には、法廷が承認を遅らせる場面もあった。

約50年の歴史を持つ中絶合法化の「ロー対ウェード」判決を覆す保守派判事の草案がリークされるという前代未聞の出来事について、シカゴ・ケント・カレッジのキャロリン・シャピロ法学教授は懸念を示す。「この機関の長年の規範が強いプレッシャーにさらされているのは確かなようだ。この国が経験している二極化が、法廷内でも同様に起きているらしい」と語った。

誰がリークしたかは公開されていないが、こうした草案にアクセスできる人の数は比較的少ない。

ジョン・ロバーツ最高裁長官は3日、内部調査を行うと発表した。

リークと無縁だった法廷

ノートルダム大学法科大学院のリチャード・ガーネット教授は「裁判所の職員もしくはメンバーが、司法の守秘義務に関する明確なルールを侵害することは、非常に大きな問題だ」と述べた。

ホワイトハウスや議会では常に、各党派が自らの目的を達成しようとリーク合戦を繰り広げている。しかし法廷は長年、そうした動きとは無縁だった。何十年もの間、司法は政治を超越しており、思想的な違いがあってもお互いの友好関係を保っている、というフレーズが繰り返されてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

途上国の債務問題、G20へ解決働きかけ続ける=IM

ビジネス

米アマゾン、年末商戦に向け25万人雇用 過去2年と

ワールド

OPEC、26年に原油供給が需要とほぼ一致と予想=

ビジネス

先週末の米株急落、レバレッジ型ETFが売りに拍車=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中