最新記事

マリウポリ

マリウポリ製鉄所、アゾフ連隊将校が語る恐怖の73日 「歯を磨くのも命懸け」...食糧の質問には怒りも

2022年5月17日(火)18時10分
青葉やまと

アゾフ連隊将校のイリヤ・サモイレンコ YouTube

<食糧が尽き、水場に出向くのも命懸けで、カビと湿気のなか2〜3時間しか眠れないという地下生活。諜報担当の将校と元避難者が状況を明かした>

1000名前後の兵士が直近まで残っていたとされるマリウポリのアゾフスタリ製鉄所の状況を、諜報責任者として製鉄所に留まったアゾフ連隊の将校が明かした。5月17日の時点でウクライナ軍は製鉄所の防衛作戦終了を発表し、残る部隊の救出の意向を示している。インタビューはこの発表の数日前に行われた。将校は24時間で同僚3人を失っており、朝歯を磨きに出るのも命懸けだと説明。逼迫した事態を強調した。

将校は名前をイリヤ・サモイレンコという36歳男性であり、諜報活動およびネットを通じたメディア対応を担当している。マリウポリの戦闘は兼ねてから激しさを増しており、サモイレンコ氏自身も立てこもり以前、ロシア軍が仕掛けた地雷によって片目と片腕を失った。いまは義眼と義手で軍の任務をこなす。

氏は英ミラー紙のビデオインタビューに応じ、製鉄所は毎日爆撃にさらされ、最大直径20メートルの穴があちこちに空いていると明かした。「まるで(クレーターだらけの)月面のようです」と氏は例える。

歯磨きに出るだけで命の危険

一日の生活は兵士の持ち場によって大きく異なるが、いずれにせよ生活の細部まで命懸けになっていたようだ。「朝になって歯を磨きに出れば、それだけで殺されるかもしれないのです」「ロシア軍は、証人が生きていることを一切良しとしません。」

食糧と医薬品の不足も深刻だ。「私たちは(インタビュー時点で)すでに73日間も隔絶された場所にこもっています。医薬品の在庫は限られており、食料の蓄えも同様です」「命に関わる薬の多くがもうありません。負傷した者たちは適切な手当を必要としていますが、医療用品が手に入らないのです。」

インタビューでは食糧の残りを聞かれる機会も多いようだが、この類の質問に対しサモイレンコ氏は憤りをあらわにする。「食糧と水がどれだけ残っているのかと尋ねられますが、この質問には耳を疑います」「仮に具体的な数字を知っていたとして、私が答えを口にするでしょうか? どういう意味でしょう、我々が死ぬまでのカウントダウンをしようというのでしょうか。」

製鉄所には36ヶ所のシェルター

いまでこそ製鉄所地下にいたほぼすべての民間人が救出されたが、一時は1000人規模の民間人が2ヶ月間を陽の当たらない地下で過ごしていた。

製鉄所で監督をしていたセルヒイ・クズメンコ氏も、家族とともに地下シェルターへ逃げ込んだ市民のひとりだ。迷路のように入り組んだ広大な地下空間には計36ヶ所にシェルターが設けられ、最大4000人を収容できるよう設計されている。

クズメンコ氏はカナダのナショナル・ポスト紙に対し、「彼ら(アゾフ連隊)の援助と食糧がなければ、我々は生き延びることができませんでした」と述べ、兵士たちと地下シェルターに助けられたと語った。

避難生活の初期にはたまに食糧が配られる程度だったが、クズメンコ氏らが自前で用意した食品が底を突くと、アゾフ連隊から定期的な支給が行われるようになったという。3〜4日おきにお粥やパスタなどの配給を受け、近くの避難者たち70人ほどと協力して一度に食事を用意していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米朝首脳会談、来年3月以降行われる可能性 韓国情報

ワールド

イスラエル、ハマスから人質遺体1体の返還受ける ガ

ワールド

米財務長官、AI半導体「ブラックウェル」対中販売に

ビジネス

米ヤム・ブランズ、ピザハットの売却検討 競争激化で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中