最新記事

医療

開発中の肥満症治療薬が20%以上の減量に効果を示す

2022年5月13日(金)15時33分
松岡由希子

「平均20%以上の体重減少をもたらした初の治験薬だ」Tero Vesalainen -iStock

<肥満症治療薬「チルゼパチド」の第3相試験が行われ、平均20%以上の体重減少をもたらした初の治験薬として注目されている......>

「チルゼパチド」は、米製薬会社イーライリリーが開発する肥満症治療薬である。食後に血糖値を下げたり、消化に関わる代謝プロセスを調整する作用を持つ消化管ホルモン「インクレチン」のうち、「GLP-1」(グルカゴン様ペプチド-1)と「GIP」(グリコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)を合成したもので、週1回の皮下注射で体重の減少を促す。

「平均20%以上の体重減少をもたらした初の治験薬だ」

2019年12月4日からの第3相試験では、2型糖尿病ではなく肥満もしくは1つ以上の合併症を持つ過体重の成人2539人を対象に、「チルゼパチド」の有効性と安全性を評価した。

被験者はカロリーを控えた食事と身体活動レベル向上のためのサポートを受けながら、偽薬、「チルゼパチド」5ミリグラム、10ミリグラム、15ミリグラムのいずれかを72週にわたって投与された。

その結果、「チルゼパチド」15ミリグラムを投与された人の体重は平均22.5%(24キロ)減少し、10ミリグラムで平均21.4%(22キロ)、5ミリグラムでは平均16.0%(16キロ)減少した。一方、偽薬を投与された人の体重は平均2.4%(2キロ)減にとどまった。

イーライリリーのバイスプレジデント(VP)ジェフ・エミック博士は「『チルゼパチド』は第3相試験で平均20%以上の体重減少をもたらした初の治験薬だ」とその手ごたえを語っている。

安全性は承認されている治療法と概ね同様だった

「チルゼパチド」の安全性や忍容性は、肥満症治療薬として承認されている「インクレチン」をベースとした他の治療法と概ね同様であった。最もよくみられた有害事象は胃腸に関連するもので、「チルゼパチド」の用量によって、24.6~33.3%に吐き気、18.7~23.0%に下痢、11.7~17.1%に便秘、8.3~12.2%に嘔吐があった。

イーライリリーではこの第3相試験の結果を引き続き分析し、今後、医学会議で発表するほか、査読付き学術雑誌にも投稿する方針だ。

「減量手術と同等の体重減少を薬によって示したものだ」

体重と健康の管理をサポートする「ナショナルセンター・フォー・ウェイト・アンド・ウェルネス」(NCWW)のディレクターで肥満予防・治療の専門家のスコット・カーン医学博士は、医療専門オンラインメディア「ヒーリオ」で「これは予備的データではあるものの、減量手術と同等の体重減少を薬によって示したものだ」とし、「糖尿病の改善や予防、長期的な心血管系の改善など、他の代謝上の効果ももたらす可能性がある」とのコメントを寄せている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米8月の求人件数は小幅増、採用減が労働市場の減速を

ワールド

トランプ氏「おそらく政府閉鎖になる」、民主党に「不

ビジネス

米CB消費者信頼感、9月は予想下回る 雇用機会巡る

ワールド

米国防長官、緊急会議で軍幹部の肥満など批判 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 3
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かった男性は「どこの国」出身?
  • 4
    10代女子を襲う「トンデモ性知識」の波...15歳を装っ…
  • 5
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 6
    カーク暗殺の直後から「極左」批判...トランプ政権が…
  • 7
    通勤費が高すぎて...「棺桶のような場所」で寝泊まり…
  • 8
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 9
    博物館や美術館をうまく楽しめない人は...国立民族学…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 3
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒りの動画」投稿も...「わがまま」と批判の声
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 6
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 7
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 8
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中