最新記事

選挙

フランス極右ルペン、対ロ制裁のインフレ批判で「親プーチン」脱却

2022年4月14日(木)14時40分

米シンクタンク、大西洋評議会の欧州センターでシニアディレクターを務めるバンジャマン・アダッド氏は、仏ルフィガロ紙に寄稿し「全面戦争に再着火したいプーチン氏にとって、西側陣営の分断は最も望むところだ」と指摘した。「マリーヌ・ルペン氏のような姿勢でウクライナ問題に臨めば、ウクライナ国民の大虐殺につながり、国土全体に紛争が広がって長期化し、欧州は長きにわたって経済的な影響を被るだろう」と批判的な目を向ける。

自責の念を否定

ロシアがウクライナに侵攻して以来、ルペン氏はプーチン氏称賛の火消しに努め、自身が心変わりをしたと述べている。ロシアの行動を非難し、ウクライナ難民の受け入れに前向きな姿勢を示し、難民移送のバスを手配するために党員を送り込んだ。

ウクライナへの防衛用兵器の支援にも前向きだ。ウクライナで戦争犯罪が行われているとして、ロシアからフランス公使を引き揚げるようマクロン大統領に進言までしている。

ルペン氏は、3月末にロイターに対し「一度しか会ったことのない人物と知り合いだからといって、自分を責めようとは思わない」と語った。

歴史的にフランスの選挙では、外交政策が有権者の心をつかんだことはない。それでもマクロン大統領は、外交で点を稼ごうと試みている。

プーチンの共犯者

「プーチン氏と共謀しているのは私ではない。ロシアから資金提供を受けているのも私ではない。それはもうひとりの候補者だ」──。マクロン氏は5日、記者団にこう述べた。

とは言えルペン氏側も、マクロン氏自身のプーチン氏に対するあいまいな態度を突くことに成功している。マクロン氏は大統領任期中に、プーチン氏を西側陣営に引き入れようと手を尽くし、ベルサイユ宮殿や南フランスの大統領別荘に招いてきた。

こうした行動は、東欧諸国やバルト諸国を幻滅させた。

ルペン氏はラジオで「ロシアが消滅することはないし、ロシアが中国と確実に同盟関係を結ぶことは、欧州にとって非常にマイナスだ。これはエマヌエル・マクロン氏が5年の任期全てを通じて避けようと努めてきたことだ」と皮肉った。

ロシアがウクライナに侵攻する直前、マクロン氏は鳴り物入りでモスクワを訪問してプーチン氏と会談したが、手ぶらで帰国することになった。マクロン氏は批判を浴びながらも、プーチン氏と交渉を続けたのは正しかったと主張し続けている。

だが、多くの有権者から見れば、マクロン氏は外交に気を取られるあまり喫緊の国内問題をおざなりにしてしまった、ということになる。

イプソスの世論調査では、約6割の人々が「購買力」を最大の関心事に挙げたのに対し、ウクライナを挙げた割合は2割にとどまった。

ノルマンディー地域の街、ビールに住む元葬儀屋のアンドレさんは「ウクライナには関心がない。懐を温かくしたい。それが望みだ」と語った。

(John Irish記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア戦車を破壊したウクライナ軍のトルコ製ドローンの映像が話題に
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・【映像】ロシア軍戦車、民間人のクルマに砲撃 老夫婦が犠牲に


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マクロン氏、早期辞任改めて否定 政治混乱もたらした

ワールド

トランプ氏、ガザ戦争終結を宣言 人質と拘束者解放

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、米中貿易戦争巡る懸念和らぐ

ワールド

ハマス、ガザ地区で対抗勢力と抗争 和平実現に新たな
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中