「1回の攻撃で奪う」 ロシアの「失敗」に学び、中国の侵攻作戦はどう変わった?
CHINA IS WATCHING
中国が台湾侵攻に踏み切るとしたら、プーチンの演説をそっくりまねた正当化を試みるだろう。いや、むしろプーチンが台湾併合を正当化する中国の論法を「学習」した節があると、ドイツ外交政策協会の中国専門家、ディディ・キルステン・タトロブは指摘している。
中国の戦略家もウクライナにおけるロシアの数々の失敗と誤算から多くを学ぶはずだ。短期的な軍事目標は達成できるかもしれないが、政治的な目標、つまりウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に非武装化と領土の割譲を強いることはそう簡単ではない。
ロシア軍は予想以上に進攻に手間取っている。指導部は精鋭の空挺部隊を投入すれば、即座に首都キーウ(キエフ)を制圧してゼレンスキー政権を倒せると考えていたようだが、このリスクの高い作戦は失敗し、敵陣に降りた空挺兵は高度な訓練を受けた士気の高いウクライナ兵の銃弾に倒れた。
以後、ロシア軍はオーソドックスな戦術に回帰し、今では大編成の機甲部隊が主要な攻撃目標にじわじわと迫っている。だがこの戦術では進軍に時間がかかり、兵站に負担がかかる上、ウクライナの反撃やゲリラ攻撃に遭いやすく、しかもその間に制裁がロシア経済を疲弊させる。
ウクライナ人の反ロシア感情は高まるばかり
そもそも、ロシアが担ぎ上げた指導者をウクライナ人が受け入れるという保証はない。ロシア軍が多数の市民を殺し、多くの都市を破壊し尽くした後ではなおさらだ。
今後も消耗戦が続くだろう。焦ったロシア軍はますます無差別爆撃に走り、民間人の死傷者は増え続け、ウクライナの国土は荒廃を極める。これではウクライナ人の反ロシア感情は高まる一方だ。
ウクライナを占領したロシアがゲリラ的な抵抗に手を焼くのは、火を見るより明らかだ。西側は資金、武器、軍事訓練、情報提供などでウクライナの抵抗勢力を支援するだろう。
既にウクライナ侵攻は、NATOとEUの結束強化などロシアにとって計算外の結果を招いている。ドイツは軍備を増強、ドイツとロシアを結ぶ天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム2」事業は頓挫し、スウェーデンとフィンランドはNATO加盟を検討し始め、中立国のスイスも対ロ制裁に踏み切った。
西側メディアではロシア寄りの論客は声を潜め、長年ロシアの「汚れたマネー」やプーチンと親しいオリガルヒ(新興財閥)を容認してきた西側資本も厳しい姿勢を取り始めた。
これらはいずれもロシアの戦略的利益に反する動きだ。こうした現実をにらみつつ、中国は台湾併合の費用対効果を見直すことになる。