最新記事

ウクライナ情勢

ロシアvsウクライナ情報戦の最前線で起こっていること

LOSING THE PROPAGANDA WAR

2022年3月16日(水)14時15分
イアン・ガーナー(歴史学者)

ベラルーシと中国が手本に

世論はどうあれ、プーチン政権は情け容赦ない報道統制に乗り出しているようだ。

3日にはロシア最後の独立系ラジオ局「モスクワのこだま」が解散に追い込まれ、独立系テレビ局ドーシチも放送を休止。最後の番組の放送後、画面はチャイコフスキー作曲の『白鳥の湖』のバレエ映像に切り替わった。

旧ソ連時代、危機が発生した際や指導者が死去した際に流れた映像だ。「良くないこと」が起きたときに流れることでおなじみの映像を使い、最後の「抵抗」を示したということだろう。

ロシア政府はソーシャルメディアへの規制強化を図っている。通信・情報技術・マスコミ監督庁はツイッターとフェイスブックへのアクセスをブロックすると発表、YouTubeについても検討中だ。

4日には、ロシア軍の活動に関するフェイクニュースを流した場合は最長15年の禁錮刑を科す法案にプーチンが署名。偽情報好きな政権が現実とフェイクニュースをどう区別するのか、進歩的な勢力には謎だ。

一方、出国しようとしたロシア国民は、国境警備員からスマホなどのロックを解除して個人的なメッセージやテレグラムのチャンネルを見せるよう強要されたと報告している。

プーチン政権は独立色の強いテレグラムをはじめ外国のソーシャルメディアへのアクセスを完全に遮断することに苦戦しているのかもしれない。そうした検閲が技術的に可能なのか、懐疑的な見方は根強く残るだろう。

ロシアの技術力は中国に遠く及ばない。その中国でも独自のインターネットサービスを完成させ、世界のほとんどをシャットアウトするまでに10年以上を費やした。

プーチンには隣国ベラルーシのルカシェンコ政権の行動が参考になるかもしれない。ベラルーシでは反体制派が抗議デモの際にテレグラムのチャンネルで反政府的な情報を公開した。

ルカシェンコ政権の治安部隊は、望ましくない情報を拡散したとして一般ユーザーを手当たり次第に拘束。テレグラムを用いた報道チャンネル「ネクスタ」の創設者で反政権派のロマン・プロタセビッチを拘束するため、彼が乗っていた航空機を強制着陸させるなど、計画遂行のためなら手段を選ばない。

ベラルーシの治安維持システムの恣意的なアプローチと、中国のようなITを駆使した大衆監視システムをもってすれば、今回のプロパガンダ合戦でロシアにも勝ち目はあるかもしれない。

これはロシア市民と言論の自由にとって恐ろしい措置であり、全権を掌握した独裁者のすることに思えるかもしれない。

だがプーチン政権の当初のシナリオは違った。紛争はロシア軍の楽勝、ウクライナ側の反ロシア勢力は跡形もなく消え去り、国民は救世主ロシアという幻想の下で結束する......。

しかし現実には、このプロパガンダ合戦でプーチンは明らかに守勢に回り、最後の抵抗を試みているのだ。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米輸入物価、4月は予想外の上昇 資本財価格がエネル

ワールド

トランプ大統領、各国に「米での事業費用」提示へ 近

ワールド

ロシア代表団長「交渉結果に満足」、ウクライナと協議

ビジネス

米一戸建て住宅着工、4月は2.1%減の92.7万戸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 5
    宇宙の「禁断領域」で奇跡的に生き残った「極寒惑星…
  • 6
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 7
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 8
    戦車「爆破」の瞬間も...ロシア軍格納庫を襲うドロー…
  • 9
    これが「女性ウケする男性像」で間違いない...『君の…
  • 10
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」にネット騒然
  • 4
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 5
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 6
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 7
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中