最新記事

ロシア

ロシア元国営通信ジャーナリストが語る、驚愕のメディア内部事情

REPORTING FROM EXILE

2022年3月31日(木)16時10分
アイマン・イスマイル(スレート誌記者)

220405P24_MDA_02.jpg

ハンガリーの首都ブダペストの国際投資銀行本社前でも反戦デモが(3月1日) REUTERS

心ある人のささやかな抵抗

ウクライナ戦争の第1段階が始まっていた2015年、私は産業的に作られたフェイクニュースがとても多いことに気付いた。そして、ロシアのメディアにファクトチェックの機能が一切ないことも理解した。

私が働いていたRIAノーボスチの後身も含めて、全てのメディアが、おぞましいプロパガンダとフェイクニュースを盛り上げているだけだった。

そこで、私は「ヌードル・リムーバー」というサイトを立ち上げ、地道にファクトチェックを始めた。ロシア語で「誰かの耳にヌードル(麺)を入れる」とは、「たわ言を吹き込む」という意味だ。

だから私は人々の耳からヌードルを取り除いてきた。今は本業に時間を取られ、サイトは2019年以降ほぼ休眠状態だが、いずれ復活させたいと思っている。

ファクトチェックには実際の調査が必要だから、私が調査報道に進んだのは自然の流れだった。クラウドソーシングやクラウドファンディングを利用して、かなり複雑な調査を始めた。

唯一の独立系英字新聞であるモスクワ・タイムズとも仕事をするようになった。彼らはとても精力的だ。

忘れてはいけない。最も重要な報道は、国営メディアのジャーナリストによるものではないのだ。

ロシアでは全メディアの90%を政府が所有している。主要な国営テレビ局のトップが全員集められ(独立系のテレビ局はもはや残っていない)、大統領府の担当者から直接、報道する話題を与えられる。

つまり、政府に命じられた話題だ。議論の余地もない。

政府系メディアしか見ない人は、おそらくロシア人の70%がそうだが、戦争が起きていることさえ知らないだろう。

国営メディアには、今も私の元同僚や友人がいる。何人かは政府の行動に強く反発して、自分にできることをしてプロパガンダを妨害しようとしている。自分がこの仕事をしなければ、ほかの誰かがやるだけだ。だから自分はとどまって、できる限りの方法で妨害しよう、と。

彼らは写真やキャプションの選び方など、ささやかな抵抗をしている。

私たちの内輪のジョークに、「悪ければ悪いほどいい」というものがある。当局に許された話題を提供していれば、報道のクオリティーなど誰も気にしないのだから、明らかにひどいものを作っても関係ない。

もっとも、私の元同僚の90%は、医療保険や年金など多くの特典がある楽な仕事だという理由で、言われるとおりにしてきた。

【関連記事】ロシア軍死者数「即座に削除」された、ある情報
【関連記事】ウクライナで中国DJI社製ドローン分析製品が、ロシアによるミサイル誘導に使われている

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、国内ハイテク企業への海外投資を促進へ 外資撤

ビジネス

米債務急増への懸念、金とビットコインの価格押し上げ

ワールド

米、いかなる対イラン作戦にも関与せず 緊張緩和に尽

ワールド

イスラエル巡る調査結果近く公表へ、人権侵害報道受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中