最新記事

ロシア

ロシア軍「エスカレートさせて脱エスカレートする」戦略と核使用シナリオ

2022年3月10日(木)21時45分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

敵の抑止が最大の目的だとしても、その抑止力は「信頼に足る」ものでなければならない。国家存続のための一線が越えられたら、その指導者は核を使用するだろうと、敵国も同盟国も自国も信じさせる必要があるのだ。

では、今回、重大な利益を守るために必要だと判断したら、プーチンは本当に核兵器を使うのか。これはあり得る。

劇的な措置を取らなければ、NATOまたはアメリカとの戦争に負けそうだと思ったらどうか。可能性はかなりある。

近年のロシアの軍事態勢の手引には、「エスカレートさせて脱エスカレートする」という戦略が示されている。それを今回に当てはめると、次のようなシナリオになる。

NATOとロシアが通常戦争に突入し、NATOが優勢になる。ロシアは低出力の核爆弾を何発か発射して、戦勢を覆そうとする(エスカレートする)。このためアメリカ大統領は戦争をストップする(脱エスカレート)。

もしアメリカも核で応じれば、ロシアがさらに多くの核兵器を使うことを懸念するはずだ、というわけだ。

米国防総省も数年前、戦争を過度にエスカレートさせずにロシアに対処する戦略のためとして、低出力核兵器を調達した。その一部は今、トライデント潜水艦発射弾道ミサイルに搭載されている。

「脅し」はポーズだったが

ちょっとクレイジーなシナリオではないかって? どんな核戦略も、少し距離を置いて見ればクレイジーだ。だが、近づいてよく見ると、そこには一定の合理性がある。

そして核のボタンに指を掛けている人物が、その合理性を信じさえすれば、それは現実になり得る。

幸い、プーチンはウクライナ侵攻以降、このオプションを現実にする具体的な措置を取っていない。2月27日に「軍の抑止力(核兵器のことだ)を担当する部隊を特別な戦闘態勢に引き上げる」よう、軍最高幹部に命じたとされるが、実際にどんな措置が取られたかははっきりしない。

ロシアの核戦闘態勢は4段階(アメリカは5段階)あるが、プーチンの表現はそのどの段階にも該当しないと、グローバルセキュリティー・ドットオルグを率いる国防・情報政策専門家ジョン・パイクは28日に語った。

本来なら、核ミサイルを搭載した潜水艦をもっと展開させるか、空中待機状態に置く爆撃機を増やすか、ロシア西部に短距離核兵器を配備することになるが、そうした動きは確認されていないというのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-中国製造業PMI、10月は50.6に低下 予

ワールド

イスラエル、レバノンにヒズボラ武装解除要請 失敗な

ワールド

AIを国際公共財に、習氏が国際機関構想アピール A

ワールド

トランプ氏、エヌビディアの最先端半導体「中国など他
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中