最新記事

ロシア

ロシア軍「エスカレートさせて脱エスカレートする」戦略と核使用シナリオ

2022年3月10日(木)21時45分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
ロシアのプーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領

大陸間弾道ミサイル発射演習(下の写真)を見守るロシアのプーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領(2月19日) ALEKSEY NIKOLSKYI-SPUTNIK-KREMLIN-REUTERS

<プーチンはウクライナ戦争に勝つために、本気で核を使うつもりなのか。おそらく、それはない。だが非常に大きな「ただし書き」が伴う。今後の状況次第では、可能性はかなりある>

われわれは世界最強の核保有国の1つだ――。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、今回のウクライナ侵攻の開始前からそんなことを言って核の存在をアピールしてきた。

さらに巡航ミサイルと大陸間弾道ミサイルの発射演習を行い、軍に核使用に向けた警戒態勢の引き上げを命じ、アメリカとNATOが戦闘に従事すれば核を使うと脅してきた。

いったいプーチンは本気なのか。本当にこの戦争に勝つために、核を使うつもりなのか。

magSR20220310isheserious-2.jpg

大陸間弾道ミサイル発射演習 RUSSIAN DEFENCE MINISTRY-REUTERS

おそらく、それはないだろう。だが、そこには非常に大きなただし書きが伴う。アメリカまたはNATOがウクライナに地上軍を派遣し、空からも爆撃をするなどして直接介入すれば、プーチンは本当に核のボタンを押すかもしれない。

だからこそ、ジョー・バイデン米大統領やNATO首脳は、ウクライナ防衛のためにそこまではやらないと言ってきた。

ウクライナはロシアの一部だと、プーチンは考えている。そしてそのために、自国の兵士を含む数千人の命を奪ってきた。

欧米諸国が直接反撃すれば、ロシアと戦争になるだろう。その戦争に通常兵器では勝てないとプーチンが判断したら、核戦争に発展する可能性は十分ある。

そもそも核兵器はそのためにある。核を保有する目的は、敵の核攻撃を抑止するだけでなく、大規模な通常戦争を抑止する(あるいは戦勢を変える)ことでもあるのだ。

これまでアメリカの大統領が、核の先制使用をしないと明言したことはない。それは、同盟国がアメリカの「核の傘」を重要な安全保障の一部と考えているからだ。

1986年にロナルド・レーガン米大統領とソ連のミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長がレイキャビク首脳会談で核廃絶合意の寸前までいったとき、最も警戒感を抱いたのはNATO諸国だった。レーガンが「核の傘」を閉じてしまうことを恐れたのだ。

バラク・オバマ元米大統領は2016年、核の先制不使用を宣言する可能性について国家安全保障会議に検討を指示した。国防総省高官がそれをメディアにリークしたところ、たちまち日本政府からホワイトハウスに事実確認の電話が入った。

ロシアには同盟国があまりないから、状況はちょっと違う。ただ、どんな核保有国も、どうしようもない窮地に追い込まれれば、核の使用を検討する。それは核保有国の戦争計画の一部なのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中