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ウクライナ情勢

ウクライナに駆けつける外国人義勇兵たち その動機と実態

2022年3月10日(木)11時02分

シェペリャク氏は、自分がやっているのは書類審査だけで、戦闘経験については判断していない、と語る。その部分は書類審査後に志願者が送られるリビウ郊外の軍事基地で評価される。採用されてウクライナ軍に編入された志願者は、他の正規兵と同等の給与を与えられるという。

一部の外国人志願者たちは、ロイターの取材に対し、公式の手続きを経ずに東部の前線に直接向かうと話した。前線に到着してからウクライナ軍から武器の支給と指示を受けたい考えだという。

遅れる出発

一部志願者は、ロジスティクス面の問題からウクライナ入りを遅らせている。

ニューヨーク市で医療関係のスタートアップ企業を営む資産家のアンソニー・カポネ氏は、ウクライナ行きを希望する元兵士やパラメディック数百人に資金を提供している。だが、「ウクライナ軍が義勇兵部隊への参加者の入隊プロセスを改善させるまで、もう1週間待つ」ために、彼らの出発を遅らせたという。

カポネ氏によれば、これまでのところ、同氏が資金援助する志願者のうち隣国ポーランドに到着した者は「少数」にとどまっている。カポネ氏は、ビジネス向け交流サイト(SNS)「リンクトイン」に資金援助のメッセージを投稿したとき、反応するのは10ー15人程度だろうと考えていた。だが、「すでに約1000人に達している」という。

カポネ氏は、資金援助の対象としているのは、軍への在籍証明を同氏自身が確認した元兵士か、救急外傷治療に携わっている現役のパラメティックだけだと話す。

カポネ氏によると、連絡してきた人の内訳は約60%が米国、30%が欧州諸国、残りは少なくとも25カ国の出身者で、コロンビアや日本、ジャマイカといった遠方の国までいる。また、大半は元兵士で、残りは救急隊員や救命救急部門の看護師だ。彼らは「一度も訪れたことすらない国を守ろう」という意志を持っているという。

米政府は、ロシア軍との戦闘を目的とした市民のウクライナ渡航について自制を呼びかけている。英国など、さらに強い警告を発している国もある。だが、カナダやドイツなどの諸国は自国民の参戦を認めている。

キエフのコネを頼りに

3日、リビウ中心部。ロシア語を話すシグと名乗るがっしりとした体格のカナダ人は、ポーランドで購入してリビウまで運転してきたミニバンの後部座席に、装備を詰め込んだバッグをいくつも積み込んでいた。

あちこちに医療器具を収納した防弾ベストを着込んだシグは、ふだんは民間のパラメディックとして働いていると語った。

シグは仲間4人連れで、そのうち1人は旧ソ連の共和国だったジョージアで生まれ、「父祖の代から」ロシア人と戦ってきたと話す米国人だ。

シグが車に積み込んだバッグには、医療用品や「MRE」と呼ばれる軍用の戦闘糧食など、数百キロ分もの装備が入っている。シグによれば、彼のチームはリビウでウクライナ人ボランティアの訓練を1日手伝った後、前線に直行する予定だという。

「キエフに知り合いがいて、手を貸してくれるだろう」とシグは言う。

6日、リビウ駅の乗車券売り場の外では、軍服を着た英国人男性のグループがキエフ行きの列車を待っていた。彼らは意気軒昂で、自国のために戦おうという男たちに感謝するウクライナの避難民たちと拳を突き合わせ、握手を交わしていた。

グループのリーダーはベン・グラントさん。エセックス出身の大柄な英国人で、英海兵隊で従軍経験があり、イラクでのセキュリティアドバイザーとしての任期を終えたばかりだと話す。自分たちが独立して行動するのか、ウクライナ軍部隊の一部として配備されるかは決まっていないと話した。

ウクライナ軍兵士について、グラントさんは「彼らは強そうだ、本当に。彼らと肩を並べて戦うことを光栄に思う」と語った。

Andrew R.C. Marshall(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


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