最新記事

ウクライナ侵攻 プーチンの戦争

ロシア軍はウクライナを「シリア」にしようとしている

USING THE SYRIA PLAYBOOK

2022年3月7日(月)15時05分
ジャック・ロシュ(ジャーナリスト)
ミサイルが直撃したハリコフ中心部

ウクライナ第2の都市ハリコフの中心部をミサイルが直撃。巨大な火の玉が上がり、行政庁舎や周辺の建物が破壊された(3月1日) AP/AFLO

<無差別爆撃が行われ、残酷なクラスター爆弾も投入されている。最前線となった第2の都市ハリコフからの現地リポート。シリアの手法を再現し、ロシアはここで何を狙っているのか>

ウクライナ第2の都市ハリコフでは、一般市民の居住地域にクラスター爆弾が降り注いでいる。首都キエフではテレビ塔と近くのホロコースト追悼施設が爆破され、アパートは瓦礫と化している。

ロシアはウクライナへの侵攻開始からの1週間で、1990年代のチェチェンや最近のシリアでの包囲戦など、過去の軍事作戦で膨大な死と破壊を引き起こした手法を再現している。今回の無差別爆撃は戦術の危険な変化の表れで、民間人がこれまで以上にロシアの多面的な攻撃の矢面に立たされることになると、専門家は警告する。

「人命に対する関心の欠如はこれまでと非常によく似ており、考えていたより速いペースで進んでいる」と、カーネギー国際平和財団のポール・ストロンスキ上級研究員は語る。「より慎重に目標を定める能力が足りないのか、その意思がないのかは分からない。おそらく両方だろう」

2月28日、ハリコフの住宅街にロシアのロケット弾が撃ち込まれた。人権団体の調査団はクラスター爆弾との複合攻撃とみている。市民の遺体が通りに散乱し、生存者は手足など体の一部を失っていた。容赦ない攻撃は翌日の夜まで続いた。

「クラスター爆弾はその無差別性と、攻撃時だけでなく長年にわたり民間人を容認できない危険にさらすことから、国際的に禁止されている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのスティーブ・グース武器調査局長は言う。「誰も、どんなときも、使ってはならない。特に人口密集地では絶対に許されない」

3月1日の朝、ハリコフ中心部の自由広場をミサイルが直撃した。市民少なくとも10人が死亡、20人以上が負傷した。監視カメラの映像によると、午前8時過ぎに地方行政庁舎の外で強烈な爆発が起こり、火の玉が近くの車や建物を黒焦げにした。救急隊員が瓦礫とねじれた金属をかき分け、救出作業に当たった。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1日、欧州議会の緊急会合でビデオ演説し、ロシアを「テロ国家」と見なすべきだと訴えた。「ハリコフに対するテロだ。ウクライナに対するテロだ」

ロシアの非情な戦術は、チェチェンでは分離独立派の武装勢力を粉砕し、シリアでは独裁者を支え、それぞれ目的を達成した。ただし、ウクライナでも成功するとは思えないと、専門家は言う。

米国務省の元上級分析官(ロシア国内政治担当)でもあるストロンスキは次のように語る。

「こうした戦術で都市を占領したとしても、何が残るというのか。全体として逆効果だろう。彼らは西側の決意に穴を開けようとして失敗し、むしろ強固なものにした。ロシアは彼らがかつてウクライナに残した文化を破壊した。さらに、政治にあまり関心のなかった人々が、家を爆撃されて憤るといった結果も招いた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中