最新記事

ウクライナ情勢

アメリカはウクライナ軍事支援を検討中

ARMING THE UKRAINIAN RESISTANCE

2022年3月2日(水)11時40分
ジャック・デッチ、ロビー・グラマー(フォーリン・ポリシー誌記者)

軍事支援に議会は賛否両論

ロシアが2014年にウクライナ領クリミア半島を不当に併合し、ウクライナ東部で分離独立派の武装蜂起を仕組んで以来、アメリカの特殊部隊とCIAはウクライナ兵の訓練に協力してきたと、米ヤフーニュースは報じている。

米軍関係者も、ウクライナの軍事能力は2014年以降に大幅に向上したと自信を深めている。

「われわれは塹壕の中でウクライナ兵と共に訓練してきた」と、この件に詳しい元米国防総省高官は言う。「兵士たちの素性も能力も、彼らの意気込みも分かっている」

非正規戦に備えたウクライナ軍の訓練を現場で見たという某欧州機関の当局者も、北のベラルーシから侵入してきたロシア軍は森に潜む敵や対戦車兵器による奇襲攻撃に遭うだろうと述べていた。

なにしろロシア軍の進路の「両側には深い森が延々と続いている」と、この人物は言う。「敵の接近してくる方角は分かっているのだから、奇襲をかけるのは簡単だ」

米バイデン政権とNATO諸国は、一貫してウクライナ支持の姿勢を表明してきた。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナの分離独立派2州の「独立」を一方的に承認し、いわゆる平和維持軍の派遣を発表したときは、直ちに強い言葉で非難した。

アメリカはロシアに対する制裁の第1弾を発動し、今後さらに制裁を強化すると警告しているが、NATOに加盟していないウクライナに軍隊を派遣し、キエフの政府を防衛することまでは考えていないとも明言している。

近年、アメリカでは、大統領が議会の承認なしに国外で軍事行動を起こす権限(いわゆる戦争権限)をめぐり、その制限の是非が活発に議論されてきた。

制限を支持する側は、ここ数十年、歴代の大統領は戦争権限を米国憲法が許容する以上に拡大してきたと批判している。2月22日には民主党のピーター・デファジオ下院議員を筆頭に40人以上の議員が連名で大統領に書簡を送り、議会に諮ることなくウクライナへ軍隊を送らないよう求めた。

これまでの戦争権限に関する議論の多くは、イエメンの反政府勢力ホーシー派と戦うサウジアラビア主導の連合軍に対するアメリカの軍事支援の是非に重点が置かれていた。

だがイエメンでの戦争と異なり、ロシアの侵攻に直面したウクライナを支援することについては、議会で幅広い超党派の同意ができている。

ただし一枚岩ではない。

上院民主党有力者の側近によれば、ウクライナ市民のレジスタンス運動への軍事支援について、既に超党派の議論は行われているが、まだ法案提出の段階ではないようだ。共和党主導のNYET法案にも、かなりの数の共和党上院議員が署名を拒んでいる。

こうした分断がある限り、ウクライナ市民に対する武器供与を大統領権限の範囲内と認めるという合意が、すんなりまとまるとは思えない。

たとえロシア軍の全面侵攻でウクライナ政府が崩壊したとしても。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 脳寿命を延ばす20の習慣
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月28日号(10月21日発売)は「脳寿命を延ばす20の習慣」特集。高齢者医療専門家・和田秀樹医師が説く、脳の健康を保ち認知症を予防する日々の行動と心がけ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

西欧の航空会社、中国他社より不利=エールフランスC

ビジネス

午前の日経平均は続伸し最高値、高市首相誕生への期待

ワールド

ブダペストでの米ロ会談、ハンガリーとの良好な関係背

ワールド

トランプ氏、中国との公正な貿易協定に期待 首脳会談
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中