最新記事

ウクライナ情勢

ノルドストリーム2制裁は、誰にとっての打撃になるのか

EUROPE’S ENERGY WOES

2022年2月28日(月)17時25分
クリスティーナ・ルー、ロビー・グラマー、セーラ・ハゴス

本格的な侵攻が始まった今、アメリカが「金融制裁を発動し、ロシアが報復措置に出れば」、相場は天井知らずに上昇しかねないと、投資銀行RBCキャピタルマーケッツの商品戦略部門を率いるヘリマ・クロフトはみる。

「(ロシアが)ハイブリッド戦争の一形態として商品を利用し、自国の輸出を制限し、ウクライナの輸出を止め、商品価格を高騰させようとする事態もあり得る」

ヨーロッパはロシアの天然ガスに大きく依存してきた。ロシア産ガスはヨーロッパの供給量の40%近くを占めている。

アメリカと東ヨーロッパ諸国はドイツなどに再三、ロシア頼みの危うさを警告してきた。ロシアは西側の経済制裁に対抗するため、天然ガスの供給を「地政学的なムチ」として振るうことも辞さないだろう、と。

今ではその警告が現実味を増して、「ヨーロッパの人々を脅かしている」と、チャオソフスキーは言う。

バイデンはぎりぎりまでノルドストリーム2を制裁対象に加えることをためらっていた。

制裁が科されるのはパイプラインの運営会社ノルドストリーム2AGとマティアス・ワーニヒCEOら同社幹部で、同社はスイス企業だが、ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムの完全子会社だ。ワーニヒはドイツ人だが、旧東ドイツの秘密警察の元工作員で、ロシア政府と密接なつながりを持つ。

バイデンは同社に対する制裁を発表した際、今後のロシアの動き次第で「次の段階」の制裁を躊躇なく発動すると警告。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はロシア産の原油や天然ガスを買い控えさせる「非常に強力な動機付けを世界に与えた」と皮肉った。

ノルドストリーム2をエネルギー戦略の要に位置付けていたドイツ政府も、バイデンの発表の前日にこのパイプラインの審査手続きの凍結を発表した。

ロシアはこの事業に巨額の資金をつぎ込んできたため、ドイツの決断は「ロシアには大きな痛手となった」と、チャオソフスキーはみる。

もっとも、ノルドストリーム2はまだ稼働していないから制裁対象になってもヨーロッパ向けのガス輸出が減るわけではない。だがトレーダーや投資家に与える心理的な影響は無視できないと、専門家は言う。

ドイツの審査凍結を受けて、ロシアはすぐさま市場心理を攪乱する戦術に出た。ロシアの前大統領で現在は国家安全保障会議の副議長を務めるドミトリー・メドベージェフがこうツイートしたのだ。

「審査凍結だって? 結構なことだ。素晴らしい新世界へようこそ。ヨーロッパ人はすぐにも天然ガス1000立方メートルに2000ユーロも支払う羽目になる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブラジル前大統領を拘束、監視装置破損 「薬の影響」

ワールド

広州自動車ショー、中国人客は日中関係悪化を重要視せ

ワールド

韓国、米国の半導体関税巡り台湾と協力の余地=通商交

ワールド

カナダとインド、貿易交渉再開で合意 外交対立で中断
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中