最新記事

クーデター

「もう親でも子でもない」 ミャンマーの新聞、反体制派に向け家族が絶縁状を掲載

2022年2月11日(金)11時59分

国軍報道官にも問い合わせたが、回答は得られなかった。絶縁通知について国軍のツォウ・ミン・トゥン報道官は11月の記者会見で、紙上でこうした宣言を行った者でも、軍政への抵抗を支援していると判断されれば訴追される可能性はあるとコメントした。

暴力的弾圧

1年前、ミャンマーでは数十万人が街頭に出てクーデターに抗議した。その多くは若者だった。軍による暴力的なデモ鎮圧の後、抗議参加者の一部は国外に逃れるか、国内の僻村(へきそん)地域で武装グループに身を投じた。こうした集団は「国民防衛隊」と称して、民主派勢力による「挙国一致政府」と緩やかに連帯している。

人権団体の政治犯支援協会(AAPP)によれば、過去1年間、治安部隊は抗議参加者を中心に約1500人を殺害し、1万2000人近くを逮捕した。国軍は、これらの数値は誇張されていると主張している。

ジャーナリストのソー・ピヤイ・アウンさんは、武装警官が警棒とシールド(盾)を振るって抗議を蹴散らす様子を撮影し、ニュースサイト「ビルマ民主の声」でライブストリーミングしたとロイターに語った。当局の捜索の手が伸びたため、同氏は国内のさまざまな場所に身を潜めた後、妻と幼い子を伴ってタイに逃れた。11月には父親が絶縁を宣言している。

父親のティン・アウン・コーさんが国営紙「ミャンマー・アリン」に掲載した通知には「両親の意志に反して許しがたい活動に従事しているため、息子との絶縁を宣言する。息子に関して、今後一切の責任を取らない」とある。

「私との絶縁を告げる新聞を目にしたときは、少し悲しかった」とソー・ピヤイ・アウンさんはロイターに語った。「でも、両親が軍事政権からの圧力を恐れていたのは理解できる。自宅が接収されたり逮捕されたりするのではないかと不安に駆られたのだろう」

父親のティン・アウン・コーさんはコメントを拒んでいる。

同様の通知により子どもとの縁を切った2人の親は、軍事政権の注意を集めることを恐れて匿名を条件にロイターの取材に応じた。通知はもっぱら、子どもたちの行動について責任を問われるべきではないというメッセージを当局に送ることだったと話す。

ある母親は、「娘は自分の信じることを行っている。だが私たちが窮地に陥れば娘が心配するのは確かだ」と話す。「私がやったことを理解してくれると思う」

リン・リン・ボー・ボーさんは、いずれ家に戻って家族を養いたいと願っているとして「できるだけ早くこの革命を終らせたい」と語った。

人権活動家のワイ・フニン・プウィント・ソン氏は、このような形で引き裂かれた家族の中には、そうした再会を果たせる例もあるだろうと語る。同氏はこうした絶縁通知について「きちんと弁護士を介して証書を作成しない限り、実は法的には無意味だ」と語る。「数年後には、また家族に戻れるだろう」

だがジャーナリストのソー・ピヤイ・アウンさんは、両親との別離がずっと続くのではないかと恐れている。

「革命が起きてから、戻る家すらない」と彼は語った。「両親を軍政下に残してきてしまったから、いつもとても心配している」

(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ミャンマー国軍が「利益に反する」クーデターを起こした本当の理由
・ミャンマー軍政を揺るがすミルクティー同盟──反独裁で連帯するアジアの若者たち


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ情勢、人質解放と停戦実現を心から歓迎=林官房長

ビジネス

サムスン電子、第3四半期は32%営業増益へ AI需

ワールド

パキスタンがアフガン国境で警戒強化、週末の衝突で数

ワールド

米にレアアース輸出規制事前通知、実務者協議も実施=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中