最新記事

中国

中国の「始末屋」衛星、死んだGPS衛星を墓場軌道に引きずり込む

2022年2月28日(月)18時00分
青葉やまと

欧州宇宙機構のデブリ除去衛星のイメージ  Image: ESA/ClearSpace SA

<通常の静止軌道を離脱し、不可解なルートを移動。デブリの除去活動とみられるが、原理としては他国の衛星を処分することも可能だ>

中国の人工衛星が1月、宇宙空間で別の衛星を「墓場軌道」と呼ばれる軌道に移動させ、物理的に処分していたことがわかった。アメリカの宇宙監視企業が確認した。

ターゲットとなったのは、2009年に中国が打ち上げ、軌道投入に失敗したGPS衛星だ。原理としては稼働中の他国の衛星を無断で軌道変更することも可能であり、米国防総省は危機感を募らせている。本件に関して中国側の説明はない。

米エクソアナリスティック社によると米東部時間の1月22日、中国の実験衛星「SJ-21」が通常の軌道を離脱した。続いて同衛星は、中国の死んだGPS衛星である「Compass-G2(または北斗2-G2)」への近接運用を開始した。搭載のアームでCompass-G2を捉えたとみられる。

米防衛産業誌の『ブレイキング・ディフェンス』は、その後SJ-21が「『大規模なマヌーバ(推進システムを利用した軌道変更)』を実施し、この死んだ衛星を静止軌道から引きずり出した」と報じている。

エクソ社が公開している動画では、25秒ごろから静止軌道を大きく逸れる様子を確認できる。

SJ-21 Tracking (January 2022)


墓場軌道へ投入

2つの衛星は連れ立って移動し、高度3万6000キロ付近にある地球同期軌道を離脱した。続いて西方へ移動しながら、さらに300キロ上方の墓場軌道に突入している。

墓場軌道は、活動を終えた衛星がスペースデブリなどの形で現役衛星に悪影響を与えないよう、安全に退避するための軌道だ。通常は最小限の燃料を残した衛星が自力でこの軌道に移行するが、他衛星によって引きずり込まれる形はめずらしい。

SJ-21はCompass-G2を墓場軌道に残し、1月26日までに通常の位置に戻った。現在、アフリカ中央・コンゴ盆地直上の静止軌道を周回している。

今回墓場軌道に投入されたCompass-G2は、中国版GPSの第2世代にあたる「北斗-2」ネットワークを構成する予定だった。第2世代の初号機として2009年に打ち上げられたが、静止化に失敗し、10年以上のあいだ死んだ衛星として漂っていた。

防衛上の課題に

SJ-21の今回の活動について、中国側の公式な声明はない。国営メディアは同衛星をデブリ除去技術の実証衛星だとしており、必ずしも軍事利用を前提としたものではないとの見方がある。

しかし、運用次第で他国の衛星を処分できる危険性をはらむ。SJ-21は昨年11月にも、実験用ターゲットとみられる衛星に対しマヌーバを行なっている。この際はアメリカ国内に防衛上の議論を巻き起こした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中