最新記事

ウクライナ情勢

独政府「ウクライナ侵攻ならパイプライン停止も」 ロシアの武器が欧米側の切り札に

Germany, U.S. Threaten To Hit Putin's $11Bn Gas Pipeline If Russia Invades Ukraine

2022年1月28日(金)16時32分
ブレンダン・コール
ウラジーミル・プーチン

ノルド・ストリーム2の建造現場を視察したプーチン(2010年) Dmitry Lovetsky/Pool-REUTERS

<ロシアによる「欧州支配」の武器になると懸念されていた「ノルド・ストリーム2」が、ウクライナ危機でロシアを牽制する格好の切り札になる皮肉>

ロシア軍がウクライナ国境沿いに10万人規模の兵士を展開させるなど、緊迫感が高まっているウクライナ情勢をめぐり、もしロシアが実際に侵攻した場合には、天然ガスのパイプライン「ノルド・ストリーム2」が制裁の対象になると、ドイツ外相が明らかにした。

ロシアとドイツを結ぶ総工費110億ドルのパイプライン(現在はドイツ規制当局の承認を待っている段階で未稼働)に対しては、以前からアメリカやEU域内の国々からも批判の声が上がっていた。ヨーロッパ大陸へのエネルギー供給が、ロシアの意向に大きく左右されるようになる懸念が強いためだ。

実際、各国の議員や評論家はこの事業について、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に「地政学的な武器」を手渡すことになると非難している。そうした議論の的となってきた全長約1200キロのパイプラインが今、プーチンがウクライナへの侵攻を指示するか否かを決める際の、大きな抑止力になるのではないかと期待されている。

AFP通信の報道によれば、ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は1月27日、ウクライナ侵攻が現実になった場合、ドイツ政府はロシアに対する「強力な制裁パッケージ」を用意しており、そのなかには「ノルド・ストリーム2」も含まれると語った。

ドイツメディアによれば、ベアボックは「いつでも対話の準備はある」と述べたうえで、「ヨーロッパの平和的秩序の礎については、交渉の余地はない」と付け加えた。

「まだガスが流れていない」からこそ切り札に

アンゲラ・メルケル首相が率いたドイツの前政権はノルド・ストリーム2について、商業的な事業だと述べていたが、ドイツ国営メディアDW(ドイチェ・ヴェレ)によれば、ベアボックは以前から、このパイプラインの建設に反対してきたという。

ベアボックのコメントは、米国務省のネッド・プライス報道官による発言を受けたものだ。プライスは26日、戦争を回避するための外交ルートを模索するアメリカにとって、ノルド・ストリーム2は交渉の「切り札」になると述べていた。

「パイプラインは私たちの力になる。ドイツの力になる。大西洋の両側にある国々の力になる。なぜなら、ガスはまだ流れていないからだ」とプライスはNPR(アメリカの公共ラジオネットワーク)で語った。

「念のために言っておくが、ウラジーミル・プーチンの力にはならない」とプライスは続けた。「ロシアがウクライナに侵攻すれば、いずれにせよノルド・ストリーム2のプロジェクトは前進しない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イランとイスラエル、再び互いを攻撃 米との対話不透

ワールド

米が防衛費3.5%要求、日本は2プラス2会合見送り

ビジネス

トヨタが米国で値上げ、7月から平均3万円超 関税の

ワールド

トランプ大統領、ハーバード大との和解示唆 来週中に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 7
    ジョージ王子が「王室流エチケット」を伝授する姿が…
  • 8
    イギリスを悩ます「安楽死」法の重さ
  • 9
    中国人ジャーナリストが日本のホームレスを3年間取材…
  • 10
    「巨大キノコ雲」が空を覆う瞬間...レウォトビ火山の…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中