最新記事

中国

中国が崩壊するとすれば「戦争」、だから台湾武力攻撃はしない

2022年1月20日(木)19時57分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

まず独立派に対する威嚇という視点から見ると、2016年5月に民進党の蔡英文が総統に就任したとき以降から、中国人民解放軍の海空軍による台湾周辺での軍事訓練が急増し始めたことが挙げられる。

これをデータとして定量分析をしたいところだが、何せ軍事情報であるため、どこも系統だった量的推移を発表していない。

わずかに『中華民国国防報告書(民国106年版)』(民国106年=西暦2017年)に、2016年後半および2017年から中国軍による領海領空侵犯が急増したという記述があることを確認することができる。

2016年1月に実施されることになっていた台湾での総統選挙に際し、国民党の馬英九に有利になるように、習近平は2015年11月7日にシンガポールのシャングリラホテルで当時の馬英九総統と会談した。1949年に中華人民共和国が誕生して以来、実に66年ぶりの国共両党首による再会だった。にもかかわらず、台湾独立傾向の強い民進党が勝利して蔡英文総統が誕生したので、習近平の顔は丸つぶれだった。

そこで、もし台湾政府として独立を叫べば「痛い目に遭うぞ」という威嚇のために、台湾周辺における軍事演習を活発化させたのである。

しかし、それ以上に、習近平が手を焼いているのが、ネットにおける歪んだ憎しみに燃えたナショナリズムだ。

実は中国国内における愛国主義的なナショナリストの好戦性が止めがたい勢いで激しくなっている。

もちろん1994年から江沢民が始めた愛国主義教育の影響や、習近平が掲げる「中華民族の偉大なる復興」が中国の若者の自尊心を刺激し、中国経済の成長が若者たちを自信過剰にさせているという背景があるにはあるが、もっと直接的な原因は「ネット空間」そのものにある。

トランプ政権は対中制裁を加速させると同時に、台湾への接近を強化していき、米台蜜月状況を作っていた。

それまでは少なからぬ中国の若者はアメリカに憧れを抱いており、その流れの中で、「アメリカの民主」へのほのかな敬慕の思いを心深くに隠し持っていた。しかしトランプ政権の言動に接し、アメリカへの憧れは対抗心に変わり、民主への敬慕は幻滅へと変わっていった。

そのような中、ネットでは同じ中国語を通して、台湾と大陸の若者が激しく罵倒し合う状況が生まれてきたのだ。大陸の若者は特殊なソフトを使ってGreat Fire Wall の壁を乗り越え(翻牆=ファン・チャン)、西側諸国のネット空間にいくらでも入っていける。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル一時153.00円まで4円超下落、現在154円

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が

ビジネス

〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中