最新記事

リトアニア

習近平のメンツ丸つぶし 欧州「中国離れ」に火をつけたリトアニアの勇敢さ

2022年1月15日(土)11時45分
東野篤子(筑波大学 人社系国際公共政策専攻 准教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

欧州で初となる「台湾代表処」を設立

「16+1」からの離脱宣言と相前後するように、リトアニアは台湾への急速な接近を開始した。7月には台湾の大使館に相当する「台湾代表処」を設立することを発表。

EUの27の加盟国のうち、すでに18カ国が台湾の出先機関である代表処を有しているが、その看板にはすべて「台湾」ではなく「台北」が用いられていた。「台湾」の名称を用いることは、中国が求める「ひとつの中国」原則に反するため認められないとする中国側の主張を、多くの欧州諸国が受け入れていたためである。

しかしリトアニアは欧州諸国として初めて「台湾」の名称を冠した代表処を設立することを選択した。対台湾関係の構築において、もはや中国の顔色をうかがうことはしないという決意の表れに他ならない。

また、「台湾」の名称を用いることは台湾を国家承認することを意味するものではないため、「ひとつの中国」原則違反にはあたらない、というのがリトアニアの立場であった。同代表処はその後、11月18日には正式に開設されている。

リトアニアはさらに、台湾に累計25万本近くの新型コロナウイルスワクチンを提供。またリトアニアと台湾の要人同士の訪問も今秋以降活発に行われている。

蔡英文台湾総統も、「状況が許せば、リトアニアという勇敢な国をぜひ訪問したい」と明言している。リトアニアと台湾は、「中国という共通の脅威に立ち向かう民主主義パートナー」と互いを位置づけ、連携をアピールするようになった。

「歴史のごみ箱にたたきこまれるだろう」

こうした一連の動きは、中国をいたく刺激した。

中国共産党系の新聞『環球時報』英語版は、リトアニアを非難する記事を日々更新している。小国のリトアニアは、米国の歓心を買いたいがために中国に歯向かい、台湾に接近しているというのが、その主な論調である。

また、高圧的な発言で知られる趙立堅外交部報道官は12月20日、「ひとつの中国」原則は「国際関係における基本的な規範であり、国際社会における普遍的コンセンサス」であると強調したうえで、それを尊重しないリトアニアは「歴史のゴミ箱にたたきこまれるだろう」と切り捨てている。

中国が行った報復措置の数々

中国のリトアニアに対する具体的な報復措置も次第にエスカレートしていった。8月には、駐中国リトアニア大使が中国側の要求で本国への帰任を余儀なくされた。

代表処の正式開設以降、駐リトアニア中国大使館は領事館レベルに格下げされたうえ、11月下旬以降はビザ発行などを含めた領事業務も停止された。

ほぼ同時期に、中国に輸出されたリトアニア製品が中国税関を通らなくなった。

そして12月中旬、それまで中国に踏みとどまっていたリトアニア外交官4名とその家族は、中国当局から外交特権の剝奪をちらつかされ、全員が中国から撤退した。

当面はリトアニアの外務本省からリモートで業務を行うという。外交官らへのこうした圧力は、外交官特権に関するウィーン条約にも違反している恐れがある。

リトアニアで製造・加工された製品は輸出を認めない

とはいえ、ここまでの段階では、リトアニアが実質的に被った被害は限定的であったといえる。そもそもリトアニアの対中貿易は同国の貿易全体の1%前後であり、中国との2国間貿易が滞っても、同国への経済全体に影響を及ぼすほどではなかった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、カナダに35%の関税 他の大半の国は「一律15

ワールド

ブラジル大統領、米50%関税に報復示唆 緊張緩和へ

ワールド

カナダ、ASEANとのFTA締結目指す 貿易多様化

ワールド

ゼレンスキー大統領、物資供給や対ロ制裁強化巡り米議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中