最新記事

メディア

中国・環球時報「編集長」が辞職、過激な「愛国主義」を訴えた男の本心は

2021年12月21日(火)18時00分
ジョン・フェン
胡錫進編集長

共産党の切込み隊長を自任しつつも「編集権の独立」を求めていた胡 YOUTUBE/HU XIJIN

<タブロイド紙の名物編集長として愛国心と欧米批判を扇動してきた胡錫進とは何者だったのか? 共産党の意向で左遷されたのか?>

中国共産党機関紙人民日報系のタブロイド紙「環球時報」で30年近く健筆を振るった胡錫進(フー・シーチン)編集長が辞任を発表。激烈な欧米批判など破天荒な編集スタイルが問題になり、クビになったのではないかと臆測が飛び交っている。

61歳の胡は12月16日、中国版ツイッターの微博(ウエイボー)に「引退の時期」が来たと、いつになく短いメッセージを投稿。16年務めた編集長の座を退いて、今後は「特約論説委員」として寄稿するという。

胡は1990年代に人民日報の特派員としてボスニア紛争を取材。環球時報の前身紙に創刊時に加わり、2005年に編集長に就任した。英語版の立ち上げを指揮し、自身の社説を通じて環球時報を中国共産党の見解を世界に知らしめるメディアに仕立てた。

胡は89年に天安門広場で行われた抗議デモに加わったと告白しているが、若気の至りとして民主化を叫んだ過去を悔いていた。現在の環球時報は胡の熱烈な愛国主義を前面に出した新聞で、胡の社説は欧米のメディアにたびたび引用されてきた。

台湾併合や軍事行動を支持してきた

胡はまた中国政府の台湾併合の野望を一貫して支持し、直接的な軍事行動を擁護することも一再ならずあった。

胡の下で、環球時報は香港や新疆ウイグル自治区における人権侵害を非難する欧米の政治家やメディアに派手な論戦を挑んできた。最近では、プロテニス選手の彭帥(ポン・シユアイ)の告発をめぐる騒ぎで、胡は彭の健在を示す動画を公開。米政府の呼び掛けで各国が北京五輪への外交的ボイコットを表明したことをあざ笑った。

人民日報と違って、環球時報の論調は中国政府の公式な立場を反映したものではない。だが共産党が国内でどの程度熱狂的なナショナリズムを許容しているかを判断する指標にはなると、専門家は言う。

習近平(シー・チンピン)国家主席の政権下で、環球時報は世論形成に大きな役割を果たすようになった。その報道内容は、自国に屈辱を強いてきた欧米に対する恨みと、超大国として世界に君臨したいという野望が入り交じった国民感情に巧みにすり寄るものだ。一方で、そうした論調は愛国主義的な熱狂をあおり、危険なまでにヒートアップさせた。

胡は世の中の風向きを読む鋭い直感の持ち主でもある。国際政治の流れと各国間の力関係をつかみ、絶妙なタイミングで最も物議を醸すコメントを放つ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ガザ和平計画の安保理採択、「和平への第一歩」とパレ

ワールド

中国の若年失業率、10月は17.3%に低下

ワールド

ツバル首相が台湾訪問、「特別な関係を大切にしている

ビジネス

債務対GDP比下げ財政持続を実現、市場の信認確保=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中