最新記事

ドイツ

メルケル後のドイツ新政権は日本を見習え

Germany Can Learn From Japan’s China Strategy

2021年11月17日(水)18時21分
ノア・バーキン(ローディアム・グループ編集長)

日本は中国と地理的に近く、緊密な経済関係があり、過去数十年間、慎重な外交姿勢を保ってきたが、それでもこのように行動を起こしている。

2020年の日本の輸出の20%以上は中国向けだった。アメリカとドイツの場合、対中輸出は全体の約8%にすぎない。日本政府は対中政策について、アメリカやドイツよりも、より微妙なバランスを取らなくてはならない立場にある。それでも、新しい地政学的現実にみずからの外交アプローチを適応させようという意欲は満々だ。

アンゲラ・メルケル首相の後を継ぐ態勢を整えている社会民主党(SPD)のオーラフ・ショルツ次期首相候補は、そこに注目すべきだ。ドイツの国家安全保障体制は、急速に進化する地政学的環境に追いついていない。

16年に渡るメルケルの首相在任中、連邦首相府の規模はほぼ倍増し、ドイツの外交政策立案の中心的存在となった。しかし省庁間の調整は、ドイツの政治システムでは野党の政治家によって主導されることも多く、うまくいかないようだ。

それが最も目立ったのは、おそらくドイツの5Gモバイルネットワークに中国の通信大手である華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)を含めるかどうかの議論のときだった。これは、経済的、技術的、安全保障上の影響を伴う政策の選択であり、政府全体で対応しなければならない課題だった。

部門間の壁が足かせ

実際には、ドイツの5Gに関する決定は長期化し、何年もかかった。閣僚は自分の限られた課題を追求するばかりで、首相府は明確な進路を決めることができず、合意を形成することができなかった。結局、ドイツ議会が最終決定を下すことになり、メルケルは自分が望んでいたよりもはるかに厳しい制限を受け入れざるをえなくなった。

こうした部門間の壁を取り払うことは、環境保護主義の緑の党と、リベラルな自由民主党との前途多難な三党連立政権を率いるショルツにとって、最優先事項であるべきだ。

メルケル内閣の財務大臣として、ショルツはファーウェイの役割を含む中国関連の大きな政策問題について明確な立場を取ることを避けた。

ドイツ総選挙の選挙運動中、彼は外交政策の継続性を説いた。しかし、緑の党と自由民主党はメルケルのアプローチに批判的で、特に人権に関してより強硬な路線を求めている。

問題は、今日の外交政策の意思決定の中心にあって、矛盾することが多い経済、国家安全保障、価値観の優先順位という問題に一貫性をもたらす包括的な戦略がないまま、さまざまな声が不協和音を奏でていることだ。

ドイツの連立交渉の初期の公式声明によると、各党は日本が10年近く前に導入したような強固な国家安全保障会議を創設しないことに決めた。だが新政府がやるべきことは、これまで武器輸出に的を絞ってきた連邦安全保障委員会で扱う問題の範囲を広げ、定期的な会議を増やすことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍がガザで発砲、少なくとも6人死亡

ビジネス

日銀、ETFの売却開始へ信託銀を公募 11月に入札

ワールド

ロシア、元石油王らを刑事捜査 「テロ組織」創設容疑

ビジネス

独ZEW景気期待指数、10月は上昇 市場予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中