最新記事

モンテネグロ

中国の魔の手から「欧州の中心」を救え

U.S., EU Risk Losing 'Heart of Europe' to China, Montenegro Warns

2021年11月15日(月)19時00分
デービッド・ブレナン

西バルカンは、ビジネスの世界的な拡大と覇権を狙う中国の政策の鍵を握る地域となっている。05〜19年、中国の政府および政府系企業によるボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビアへの投資額は146億ドルを超えた。

もっともこの地域への投資額が最も多いのは今もEUで、その割合は全体の70%。中国の1%をはるかに上回る。一方で中国は、西バルカン諸国の成長に欠かせない大型プロジェクトに集中的に投資してきた。

中国の広域経済圏構想「一帯一路」はこの地域にも及んでおり、中東欧とギリシャのピレウス港(中国の国営海運会社である中国遠洋公司が大半を保有する)を結ぶ鉄道や道路が建設されている。

中国の政府系企業はモンテネグロでは高速道路、セルビアでは鉄道、ボスニア・ヘルツェゴビナでは石炭プラント、北マケドニアでは道路に資金を提供した。

借金は積み上がってきている。中国からの債務残高はGDP比でボスニア・ヘルツェゴビナでは3%、セルビアでは7%、北マケドニアでは8%、そしてモンテネグロでは21%に達している。

世界各地の小国が、中国のいわゆる「債務のわな外交」に飲み込まれている。これは中国から多額の借金をして返済できなくなった国が、インフラの管理権の譲渡や、中国の地政学的利益に対する後押しを余儀なくされる状態を指す。

インフラ整備も観光業も「東側」諸国が頼り

モンテネグロはEU当局や欧州の金融機関と協力し、中国からの債務10億ドル分の借り換えを目指している。これは前政権がセルビアとモンテネグロをつなぐ新しい道路の建設費の一部として借りたものだ。

「国内のインフラの改善がどうしても必要だった」とラドゥロビッチは言う。「中国は融資を申し出、当時の政府はそれを受け入れた。この中国からの債務の返済は可能だ」とラドゥロビッチは述べた。

モンテネグロは先ごろ、1回目の分割返済を行った。借り換えにより、債権は欧州やアメリカの金融機関の手に渡るかも知れない。そうなればモンテネグロ政府が中国の債務のわなに落ちたのではという懸念も緩和される。

「わが国は政治的には西側だが、経済は東側に依存している」とラドゥロビッチは述べた。「中国からはこうした借金があり、観光業は旧ソ連諸国からの観光客頼みだ。この矛盾した状況に橋渡しをし、さらなる投資を西側から呼び寄せたい」

ラドゥロビッチに言わせれば、西側の理想に殉じようというモンテネグロ政府の意志は固い。「価値観や理想と、投資のどちらがより大切なのかとわれわれは自問しなければならない。確かに投資は必要だが、それによってわが国の政策の優先順位が揺らぐことはない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中