最新記事

岸田内閣

日本の新しい外相には期待がもてる

For Once, Japan’s Foreign Minister Is Actually Qualified

2021年11月12日(金)18時24分
ウィリアム・スポサト(ジャーナリスト)
林芳正外相

今度の日本の外相は国際的にも知られた外交の専門家だ(第二次岸田内閣の外相に就任した林芳正)Issei Kato-REUTERS

<実力よりも派閥の論理が先行することが多い日本で、国際的にもよく知られ知識も経験も豊富な林芳正が外相に選ばれた。岸田首相の意を汲んで、日本の外交に新たな一歩を刻めるか>

10月末に実施された衆議院選挙で、与党・自民党を事実上の「勝利」に導いた岸田文雄総理大臣が11月10日、第2次岸田内閣を発足させ、外相に林芳正を起用すると発表した。党内の派閥への配慮よりも、国際派で経験も豊富な点を重視した人選だ。これは日本の政治においては珍しいことで、既に批判の声もあがっている。

日本の閣僚指名は伝統的に、1955年の結党以来ほぼ一貫して政権の座に就いてきた自民党内の各派閥の均衡をとる形で配分されてきた。閣僚ポストは、閣僚たちが意義ある政策を実行する間もなく刷新されることが多く、また任命された閣僚が必要な知識を欠いていることが露呈するケースも多い。2018年にサイバーセキュリティ担当に任命された大臣が、一度もコンピューターを使ったことがないと認めたのがいい例だ。

対照的に、国際社会にもよく知られている林芳正を外相に起用したことで、岸田は自分がどのような外交政策を推し進めていきたいのかという意志表明を行った。同時にこれは、自民党内で大きな力を持つ(いずれも元総理の)安倍晋三と麻生太郎の警告を無視した人選でもあった。

衆議院議員としては「新参者」と反発の声も

林に、外相を務めるのに適した能力があることは間違いない。彼は東京大学を卒業し、米ハーバード大学ケネディ政治学大学院で修士号を取得している。英語が堪能で、ワシントンでスティーブン・ニール下院議員(ノースカロライナ州選出)とウィリアム・ロス上院議員(デラウェア州選出)のアシスタントを務めた経験があり、最近はアメリカの外交政策に関する複数のイベントでも演説を行っている。

1995年の参議院選挙で初当選を果たし、閣僚経験も豊富(その多くはスキャンダルの後に安定した人物が必要だとして任命されたものだ)で、これまでに内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)、農林水産大臣、防衛大臣や文部科学大臣を歴任している。

日本の複数の報道によれば、安倍と麻生は主に2つの点を理由に、林の起用に反対した。一つ目は党内政治レベルの問題で、林が(衆議院よりも権限が弱い)参議院議員を26年務めた後、今回の選挙で衆議院に鞍替えして立候補して当選したばかりの「新参者」だということだ。伝統的に序列を重視する日本の政界では、林は自分の順番が回ってくるまで待つべきだと考えられていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:低迷ヘルスケア株、浮上の鍵は米薬価政策巡

ワールド

再送-アングル:米のロシア産原油購入国への「2次関

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック最高値、米EU貿易

ワールド

トランプ氏、スコットランド到着 英首相やEU委員長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:山に挑む
特集:山に挑む
2025年7月29日号(7/23発売)

野外のロッククライミングから屋内のボルダリングまで、心と身体に健康をもたらすクライミングが世界的に大ブーム

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 2
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心中」してしまうのか
  • 3
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安すぎる景色」が話題に、SNSでは「可能性を感じる」との声も
  • 4
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 5
    機密だらけ...イラン攻撃で注目、米軍「B-2ステルス…
  • 6
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 7
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「電力消費量」が多い国はどこ?
  • 9
    アメリカで牛肉価格が12%高騰――供給不足に加え、輸入…
  • 10
    羽田空港に日本初上陸! アメックス「センチュリオン…
  • 1
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞の遺伝子に火を点ける「プルアップ」とは何か?
  • 4
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 5
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 6
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 7
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 8
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 9
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 10
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中