最新記事

感染症

40年前に根絶したはずの「天然痘ウイルス」が戻ってくる?

Why Smallpox Is so Dangerous As Vials Found in Pennsylvania

2021年11月18日(木)15時51分
エド・ブラウン

天然痘ワクチンを開発し、1984年に世界初のワクチン接種を行なったジェンナーのイラスト traveler1116-iStock

<政府機関の厳重な監視の下に置かれているはずなのに、メルク社の冷凍庫を片付けていた職員がラベルに「天然痘」と記載された小瓶15本を発見。中身は本当に数億人を殺したあのウイルスなのか>

製薬大手メルクが所有する米ペンシルベニア州郊外の施設内で、「天然痘」というラベルの貼られたガラスの小瓶が発見され、FBIと米疾病対策センター(CDC)が調査を行っている。ヤフーニュースによれば、小瓶は15本見つかったということだ。

CDCはCNNの取材に対し、現在これらの小瓶を調べているところだと認め、小瓶は施設内の冷凍庫を片付けていた職員が見つけたものだと明らかにした。誰かが小瓶の中身に接触した形跡はないという。

天然痘(痘そう)は、天然痘ウイルスによって引き起こされる伝染病だ。感染すれば死に至る可能性もあり、かつて世界中で数億人の死者を出したが、1980年にWHO(世界保健機関)が根絶を宣言した。

米食品医薬品局(FDA)によれば、最も一般的で重い症状の「大痘瘡」の場合、死亡率は約30%にのぼる。感染すると、12~14日の潜伏期間の後に症状が出始め、一般的には高熱やひどい頭痛、背中の痛みなどがみられる。さらにその後、水疱性の発疹が出て、それが数週間後にかさぶたになって剥がれ落ちる。

ミシガン大学医療センターによれば、天然痘はくしゃみ、咳や呼気、かさぶたや発疹から浸み出した液体を介して、場合によっては患者の所有物に触れることでも感染が広がる可能性がある。確立された治療法はないが、ワクチンによる予防が可能。1796年にイギリス人医師のエドワード・ジェンナーが初めての天然痘ワクチンを開発し、人類初のワクチン接種を行なった。

WHO指定の保管施設は世界で2カ所だが

1960年代に国際社会が協力してワクチン接種と監視を行ったことで、1980年にはWHOが天然痘の根絶を宣言。これ以降はもう、一般市民を対象とした天然痘ワクチンの接種は推奨されていない。

WHOは天然痘の根絶について「公衆衛生における歴史上、最も注目すべき偉大な成功のひとつ」としており、1977年にソマリアで感染が確認されたのを最後に、感染例の報告はない。

天然痘ウイルスは今も、一部の医学研究所で厳重な安全措置の下、保管されていることが分かっている。CDCによれば、WHOから天然痘ウイルスの保管施設として指定されている研究施設は、世界で2カ所。ジョージア州アトランタにあるCDCの施設と、ロシアのコルツォボにある国立ウイルス学・生物工学研究センターだけだ。

しかし、このほかの施設でも天然痘ウイルスが保管されている可能性はあり、それが誤って、あるいは意図的に流出される可能性が懸念されている。CDCは「そのような事態が起きれば、破壊的な影響がもたらされかねない」と言っている。


ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

政府、経済対策を閣議決定

ワールド

EU、豪重要鉱物プロジェクトに直接出資の用意=通商

ビジネス

訂正-EXCLUSIVE-インドネシア国営企業、ト

ワールド

アングル:サウジ皇太子擁護のトランプ氏、米の伝統的
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中