最新記事

中国

管理職の中国出張は危険...外資企業を待つ共産党「人質外交」の罠

China No Longer Safe to Visit

2021年10月7日(木)18時00分
エリザベス・ブラウ(アメリカン・エンタープライズ研究所研究員)

211012P36_HGK_02v2.jpg

ファーウェイの孟晩舟副会長の声明を報じる街頭テレビ(北京、9月26日) CARLOS GARCIA RAWLINSーREUTERS

「恣意的拘束」の標的に

現に今年5月、英経済紙フィナンシャル・タイムズは、欧米の企業幹部は人質が犯人に同情するストックホルム症候群に陥っていると報じた。最近は多くの欧米企業が、地図上での台湾の扱いや、ウイグル人の強制労働に懸念を表明したことなどを「侮辱」だとして中国政府から罰せられてきた。にもかかわらず、多くの欧米企業の幹部は中国政府ではなく欧米メディアや人権団体を非難しているという。

だが目を覚ましたほうがいい。中国は孟の釈放の数時間後にコブリグとスパバを釈放したことで、カナダ人2人の拘束理由がスパイ容疑ではなかったことを世界に示した。

2人が拘束されたのは、単にカナダ人で、孟が逮捕された際たまたま中国にいて、スパイ容疑が全くの事実無根には見えないような職業だったからだ(コブリグは元外交官で有力シンクタンク「国際危機グループ」に勤務、スパバは北朝鮮とつながりのあるコンサルタント)。要は、外交上の目的を達成するための恣意的拘束だったのだ。

この種の人質外交に手を染めた結果、中国の並外れたいかがわしさはムアマル・カダフィ大佐時代のリビアに匹敵するほどになった。08年、カダフィの息子ハンニバルはスイスの高級ホテルで使用人を殴った容疑で妻と共にスイス当局に逮捕された。その後、夫妻は出国を許可されたものの、逮捕に激怒したカダフィはスイスに対する報復措置として、たまたまリビアに滞在中だったスイス人ビジネスマン2人を恣意的に拘束した。

中国がこうした国の仲間入りを果たしたことは、グローバル企業に計り知れない影響を与えるかもしれない。

確かに多国籍企業は、従業員が誘拐事件や人質事件、さらにはテロ事件など、さまざまな危険にさらされてきた。このため、ハイリスク国に駐在したり出張したりするビジネスパーソン向けに、危険を回避するためのトレーニングを実施する業界は、かなりの大きさに成長している。

だが、基本的に、こうした国で誘拐などに従事するのは、犯罪集団だ。政府当局が外国政府を脅す目的で、その国から来たランダムな市民を逮捕することはめったにない。

そのわずかな例には、イランが含まれる。実際、イランには今も、イギリスの慈善団体職員ナザニン・ザガリラトクリフなど、欧米諸国の市民(その多くは欧米諸国に帰化したイラン出身者だ)が複数拘束されている。

だが、標的にされた市民には悲劇とはいえ、企業活動への影響の面から言うと、国際社会の制裁のせいで、そもそもイランと取引をしている欧米企業はほとんどない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

インフレに忍耐強く対応、年末まで利下げない可能性=

ワールド

NATO、ウクライナ防空強化に一段の取り組み=事務

ビジネス

米3月中古住宅販売、前月比4.3%減の419万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請、21万2000件と横ばい 労働
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲…

  • 7

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 8

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 9

    インド政府による超法規的な「テロリスト」殺害がパ…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中