最新記事

北アイルランド

実は英国もアイルランドも、そこまで北アイルランドを求めていなかった

2021年10月27日(水)12時39分
コルム・クイン
アイルランド、北アイルランド国境

アイルランド共和国と北アイルランドの国境に設置された道路標識 CLODAGH KILCOYNEーREUTERS

<誕生100周年を迎えた北アイルランド。アイルランド共和国との統一機運は高まっているとされるが、各国の国民たちの本音は?>

イギリスとアイルランド共和国の政界・宗教界の指導者たちは10月21日、北アイルランドの誕生100周年を記念する礼拝に参加するため、同地域アーマー県の教会に集まった。だが、この地域が次の100年もイギリスの一部として存続するかどうかは不透明だ。

アイルランド独立戦争後の1921年、英政府とアイルランドの革命勢力との妥協の産物として誕生した北アイルランドの地位は、何世代にもわたり論争の的となってきた。

最近もブレグジット後の扱いが問題となっている。この地域の交易条件を定めた北アイルランド議定書をめぐるイギリスとEUの対立は、イギリスにおける北アイルランドの地位に根本的な問いを突き付けるものだ。

先祖が北アイルランド出身のバイデン米大統領も、遠くアメリカからこの問題に首を突っ込んだ。ニューヨーク・タイムズ紙によると、バイデンは9月のジョンソン英首相との正式な首脳会談まで待てず、直前の1対1の話し合いでこの話を切り出したという。

南のアイルランド共和国は、100周年に複雑な思いを抱いている。この国の2大政党は100年前の内戦では互いに敵対する陣営だったが、2020年に初めて連立パートナーとなった。

IRAの流れをくむ党が最も人気

同国の2大政党である共和党と統一アイルランド党は、南北アイルランド統一を党是とするシン・フェイン党の脅威に直面している。シン・フェイン党はもともとカトリック系過激組織アイルランド共和軍(IRA)の政治部門だったが中道左派の政治的立場を打ち出し、前回の選挙で最多得票を獲得。最新の世論調査で2位に10ポイント差をつけ、最も人気のある政党に躍り出た。

この微妙な政治状況を考慮して、100周年の礼拝にはアイルランド共和国から首相ではなくコベニー外相が出席した。国家元首のヒギンズ大統領は、このイベントは政治色が強過ぎると判断して招待を辞退した。イギリスのエリザベス女王も出席予定だったが、医師の指示で自宅待機になった。

ブレグジットをきっかけに強まる統一の動きと人口動態の変化を考慮すると、北アイルランドが次の100年も存続できる可能性は低そうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中