最新記事

アフガニスタン

囚人だったタリバンに奪われた「拷問」刑務所

Taliban Fighters Once Held as Prisoners in Kabul Prison Now in Charge of Running It

2021年9月15日(水)17時38分
メアリー・エレン・カグナソラ
プル・エ・シャルキ刑務所

プル・エ・シャルキ刑務所の外を歩く囚人たち(2018年) Omar Sobhan-REUTERS

<ついこの間まで大勢のタリバン戦闘員が投獄されていた悪名高い刑務所は、カブールを陥としたタリバンが解放し、管理している>

アフガニスタンの首都カブール郊外にあるプル・エ・シャルキ刑務所にはかつて、イスラム原理主義勢力タリバンの構成員の多くのが収監されていたが、タリバンがアフガニスタンの実権を掌握した今は、タリバンによって運営されているとAP通信が伝えた。

タリバンは首都カブールを制圧した後、この刑務所を襲撃。看守らを追い出し、囚人を全員解放して施設を完全に支配した。この刑務所は長年、囚人に対する暴力と大量処刑、拷問で悪名高かった。

「当時のことを思い出すととてもひどい気分になる」と、この刑務所に約14カ月収容されていたというタリバンの司令官はAP通信に語った。「あれは私の人生で最も暗い日々だった。今は、私にとって最も幸せな瞬間だ。自由で、恐れることなく外に出ることができたのだから」

この刑務所には、ソ連軍に占領されていた1970年代末から80年代にかけて作られた集団墓地と拷問室がある。アメリカの支援を受けた政府の管理下に置かれたのちも状態はあまり改善せず、劣悪な環境と囚人の詰め込みすぎで悪名高かった。11の監房棟には、建設時の予定人数の倍の囚人が詰め込まれていた。そのなかにはタリバンもいれば、犯罪者もいた。

AP通信の報道は以下のとおり。

過密で劣悪な環境

かつてこの刑務所は、政府に逮捕された何千人ものタリバンであふれかえっていた。タリバンのある司令官は、誰もいない監房が並ぶ通路をゆっくりと歩き、自分がかつて投獄されていた場所を友人たちに見せていた。

タリバンは1カ月近く前に首都カブールを制圧し、20年近くアメリカの支援を受けていた前政権を瓦解させ、タリバンの統治を象徴するような驚くべき新秩序を瞬時に打ち立てた。

名前を明かすことを拒んだこの司令官は、何人もの友人と共に、刑務所を私的に訪れていた。彼は約10年前にクナール州東部で逮捕され、縛られ、目隠しをされたままプル・エ・シャルキ刑務所に連行されたと語った。

アフガニスタン人や世界中の多くの政府は、タリバンのすばやい権力奪取に警戒感を募らせている。1990年代に初めてタリバンが国を支配したときと同様と同じ厳格な統治を行うことを恐れているからだ。だがタリバンの戦闘員にとっては、それは長く激しい戦いの末の勝利であり、山岳地帯で戦争を始めて以来、初めて都会を見るチャンスでもあった。

APの記者に同行したタリバンの警備員の中には、空になった監房に入るのは初めてだという人もいた。窓からぶら下がる布や小さな敷物、水筒など囚人たちが残した雑貨が散らかっている監房を、警備員たちは感慨深そうに眺めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、カイロに代表団派遣 ガザ停戦巡り4日にCI

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週間ぶり安値、米雇用統計受

ビジネス

米国株式市場=急上昇、利下げ観測の強まりで アップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中