最新記事

健康

「ただ話を聞いてくれるだけ」の存在が、脳の老化を防ぐとの研究結果

Be a Better Listener

2021年9月15日(水)20時39分
サマンサ・ベルリン
会話

解決策やうまい返事がなくても構わない、大切な人の話に耳を傾けよう LJUPCO/ISTOCK

<話を聞いてもらうだけで認知症のリスクも減る。家族や友人と支え合う「サポーティブ・リスニング」の効用>

リアリティー番組を見てつらさを紛らわせる、ランニングで「幸福ホルモン」を分泌する、親友に愚痴を言うなど、私たちの心はさまざまなものからサポートを得ている。

こうした社会的な支えは健康に良いだけでなく、アルツハイマー型などの認知症のリスクを減らすことが分かっている。米国医師会のオンラインジャーナル「JAMAネットワーク・オープン」に掲載された研究によると、心の内を吐き出したいときに、積極的に聞いてくれる友人や家族がいることは、認知的レジリエンス(回復力)を高めることにも役立つという。

認知的レジリエンスとは、加齢が進んでも高い認知能力を維持する能力のことだ。認知的レジリエンスの低下は認知症や、脳の機能や思考プロセス、記憶力が低下する疾患と関連する場合が多い。

アルツハイマー型認知症の患者数は全米で推定600万人以上。米アルツハイマー病協会の予測では、2050年には65歳以上のうち1270万人以上が症状を示すという。

今回の研究では成人2171人がまず、以下の社会的交流をどのくらい受けているか、各レベルを自己申告した。「サポーティブ・リスニング」「アドバイス」「愛情」「感情的サポート」「十分な接触」の5つだ。さらに、MRI(磁気共鳴映像法)を使い認知的レジリエンスを測定した。

その結果、サポーティブ・リスニングをよく受けていると答えた被験者は、より認知的レジリエンスが高いことが分かった。サポーティブ・リスニングとは、人が話したいとき、思いやりを持って耳を傾けることだ。人は助言や返答を求めるのではなく、ただ話を聞いてほしいときもある。

社会的交流が認知機能を高める

「認知的レジリエンスを高める要因は、加齢や疾患に起因する脳の物理的な変化と認知能力との関係を修正する働きがあるのではないかと、アルツハイマー病協会が支援する研究は示唆している」と、論文は述べる。

19年の別の研究は、社会的交流のレベルから個人の認知機能の低下を予測できると示している。認知機能の低下や認知症と直接関係のある脳内のタンパク質、ベータアミロイドのレベルが高い被験者のうち、社会的交流が多い人は少ない人に比べて、認知機能の低下が抑えられていた。

同じように今回の研究は、社会的交流の増加が、新しいニューロン(神経細胞)の成長につながることを示している。これらの新しいニューロンは、記憶に貢献するシナプス可塑性(情報を伝達するシナプスの働きが持続的に変化すること)を高める。

さらに、社会的交流に必要な脳のプロセスが、神経の修復に大きな役割を果たすアミノ酸を生成すると考えられる。

大切なのは、支え合う親密な関係を築くことだけではない。互いに良い聞き手になろう。話す人も聞く人も気分が良くなって、脳の健康とレジリエンスの維持につながる。

202310036issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2023年10月3日号(9月26日発売)は「日本化する中国経済」特集。バブル崩壊危機/デフレ/通貨安/若者の超氷河期……失速する中国経済が世界に不況の火種をまき散らす

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米FTCがアマゾン提訴、独禁法違反の疑い 資産売却

ワールド

中国アリババ、物流部門の菜鳥を分離し香港でIPOへ

ワールド

バイデン氏、ミシガン州でピケ視察 UAWの40%賃

ワールド

米、中国3社に新たに輸入制限 ウイグル強制労働への

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:日本化する中国経済

特集:日本化する中国経済

2023年10月 3日号(9/26発売)

バブル崩壊危機/デフレ/通貨安/若者の超氷河期......。失速する中国経済が世界に不況の火種をまき散らす

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    「可愛すぎる」「飼いたくなった」飼い主を探して家中さまよう子ヤギ、その必死さにネット悶絶

  • 3

    西日本最大級のグルメイベント「全肉祭」 徳島県徳島市にて10/20~10/22に第4回開催決定!

  • 4

    中国高官がまた1人忽然と消えた...中国共産党内で何…

  • 5

    「中流階級」が50%以下になったアメリカ...縮小する…

  • 6

    中央アジアでうごめく「ロシア後」の地政学

  • 7

    ゼレンスキー、念願の最強戦車「エイブラムス」がウ…

  • 8

    横暴中国、バリアーを張って南シナ海のフィリピン漁…

  • 9

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 10

    ウクライナが手に入れた英「ストームシャドウ」ミサ…

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳への蓄積と「異常行動」が観察される

  • 3

    常識破りのイーロン・マスク、テスラ「ギガキャスト」に「砂」活用し他社引き離す

  • 4

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 5

    これぞ「王室離脱」の結果...米NYで大歓迎された英ウ…

  • 6

    「ケイト効果」は年間1480億円以上...キャサリン妃の…

  • 7

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 8

    J.クルーのサイトをダウンさせた...「メーガン妃ファ…

  • 9

    ロシアに裏切られたもう一つの旧ソ連国アルメニア、…

  • 10

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 1

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 2

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部隊がロシア軍の塹壕に突入

  • 3

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 4

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 5

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 6

    サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る…

  • 7

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 8

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」…

  • 9

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 10

    ロシア戦闘機との銃撃戦の末、黒海の戦略的な一部を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中