最新記事

韓国

韓国世論も日韓関係の悪化しか生まない「徴用工裁判」に嫌気

2021年9月14日(火)15時23分
佐々木和義

手動での消火活動、最悪のシナリオでは退避も想定 NASA/Roscosmos/REUTERS

<韓国世論は、出口が見えず、日韓関係の悪化しか生まない「徴用工裁判」に嫌気が差しており、裁判所の判断に少なからぬ影響を与えている可能性も...... >

9月8日、ソウル中央地裁は、旧朝鮮半島出身労働者の遺族が日本製鉄を相手取って起こした訴訟で、原告の訴えを棄却した。

韓国では元労働者が日本企業を訴える「徴用工裁判」が相次ぐが、大邱と水原の地裁が、大法院判決に基づく日本企業の資産の差し押さえと現金化に苦心するなか、ソウル地裁が元労働者の訴えを退けている。

ソウル中央地裁は消滅時効を理由に原告の訴えを棄却

2021年9月8日、元労働者の遺族4人が、元労働者が戦時中、岩手県釜石製鉄所に強制動員されたとして日本製鉄に対し損害賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁は消滅時効を事由に原告の訴えを棄却した。同地裁は8月11日にも元労働者の遺族が三菱マテリアルを相手取った訴訟で、消滅時効を事由に原告の訴えを棄却している。

韓国の民法で損害賠償請求の消滅時効は、違法行為が行われた日から10年、または、被害者が損害と加害者の違法行為を認知した日から3年と定められている。8月に棄却が下された訴訟の提起は17年2月、9月の訴訟は19年4月だった。

元労働者を巡る裁判は1997年が最初である。2人の元労働者が日本政府と新日本製鐵(現・日本製鉄)に慰謝料と未払い賃金を求める訴訟を大阪地方裁判所で起こした。2003年、最高裁が「1965年の日韓請求権協定で解決済み」として上告を棄却し、日本の判例となっている。

韓国政府は2005年、日韓請求権協定には慰安婦、サハリン残留韓国人、韓国人原爆被害者は含まれないと述べ、2009年、労働者の未払い賃金は請求権協定で解決済みという見解を示した。地裁と高裁は政府見解に沿う判決を下したが、2012年5月23日、大法院(最高裁)が、高裁の棄却判決を差し戻した。

その後、2018年10月30日、大法院は新日鉄住金(現・日本製鉄)に対し、原告4人に1人あたり1億ウォンの損害賠償の支払いを命じる判決を下した。以降、韓国の法曹界は、消滅時効の基点は12年5月か18年10月かで見解が分かれるが、ソウル中央地裁は12年5月と判示した。

ソウル中央地裁は6月7日にも元労働者と遺族85人が日本企業16社を相手取った訴訟で却下決定を下しており、3回続けて元労働者らの訴えを退けたことになる。

地裁が外交問題の矢面に立たされている

元労働者の勝訴が確定した裁判で、地裁は大きな壁にぶつかっている。日本政府は、日韓請求権協定で解決済みという立場から韓国の裁判所が送達した文書の受け取りを拒絶しており、日本企業が賠償金支払いに応じることはない。

また、韓国の裁判所が日本や第三国にある資産を差し押さえようとすれば、当該国当局の協力が必須だが、日本はもとより、日韓の確執に巻き込まれたくない各国も協力しない。裁判所は韓国内にある資産の差し押さえと現金化を進めるが、日本政府が強硬に反発する一方、韓国政府は沈黙しており、地裁が外交問題の矢面に立たされている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン作戦、目標達成に時間 終わりなき戦争ではない

ワールド

原油価格は高止まりへ、ホルムズ海峡の供給懸念で=ア

ワールド

AWSのUAEデータセンターに物体衝突で火災、湾岸

ビジネス

米ISM製造業景気指数、2月ほぼ横ばいの52.4 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 5
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 6
    【トランプ関税はまだ序章】新関税で得する国・損す…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中