最新記事

韓国

韓国世論も日韓関係の悪化しか生まない「徴用工裁判」に嫌気

2021年9月14日(火)15時23分
佐々木和義

大邱地裁は19年1月、原告の申請を受けて日本製鉄が有するリサイクル会社PNRの株式8万1075株、額面価格4億537万5000ウォン(約3600万円)の差し押さえに着手した。日本政府が関連書類を返送したため、同地裁は20年6月、差し押さえ決定書類が日本製鉄に届いたとみなす公示送達を行った。日本製鉄は即時抗告を行なったが、地裁が21年8月、棄却した。

PNRは韓国鉄鋼最大手のポスコが70%、日本製鉄(当時・新日本製鐵)が30%出資して設立した。ポスコが日本製鉄の持分を買収すると目されたが、同社は政治外交問題への関与は好ましくないという判断から買収しない方針を決めた。現金化手続きの応札者が日韓関係の新たな火種を生み、また、PNRの企業運営に影響が出る可能性もある。

水原地裁は8月18日、18年11月の大法院判決に基づいて、三菱重工が韓国企業に対して有する債権の差し押さえに着手した。三菱重工がLSエムトロンに販売した商品代金8億5310万ウォン(約8000万円)の取り立てを決定したが、LSエムトロンが、商品購入先は三菱重工ではないと反論した。その後、LSエムトロンが提出した資料で、同社の取引先は三菱重工の子会社の三菱重工エンジンシステムと判明。地裁は差し押さえ命令を解除し、暗礁に乗り上げた。

韓国人の約60%が、差し押さえと現金化に否定的

21年6月、ソウル地裁が元労働者らの請求を却下すると、韓国の法曹界やメディアが判決を批判し、裁判長の解任を求める声も上がったが、8月と9月の棄却は沈黙している。日韓シンクタンクの東アジア研究院などが20年9月に行った調査で、韓国人の約60%が、差し押さえと現金化に否定的だった。

国交正常化以降、最悪といわれる日韓関係は18年10月と11月の「大法院判決」に端を発する。19年7月、日本政府がキャッチオール規制に基づいて、韓国向け輸出管理を強化すると、韓国政府は日本政府が「大法院判決」に対する報復を行ったと主張して、日本製品不買運動が拡散し、日韓関係が急激に冷え込んだ。

韓国世論は、出口が見えず、日韓関係の悪化しか生まない「徴用工裁判」に嫌気が差しており、裁判所の判断に少なからぬ影響を与えている可能性もありそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

PayPayが12月にも米でIPO、時価総額3兆円

ビジネス

英議員、中ロなどのスパイの標的 英情報機関が警告

ワールド

ロ潜水艦が仏沖で緊急浮上、燃料漏れとの情報 黒海艦

ワールド

ブレア元英首相のガザ和平理事会入り、トランプ氏「確
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中