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気候変動

現在の気候変動は本当に危機なのか、それとも杞憂か...科学者たちの見解

CLIMATE CHANGE IS A CRISIS

2021年9月2日(木)13時41分
ヘザー・ゴールドストーン(ウッドウェル気候研究センター)、ジェームズ・テーラー(ハートランド研究所所長)
地球温暖化(イラスト)

ILLUSTRATION BY THESAMPHOTOGRAPHY/ISTOCK

<温室効果ガス排出量の抑制と経済をめぐる意見の果てしなき対立の「正解」は>

気候変動は間違いなく最大の脅威だ

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ヘザー・ゴールドストーン(ウッドウェル気候研究センター)

緊急性があり、かつ生死に関わるが、まだ打つ手はある――そんな状況を「非常事態」と呼ぶ。同様な状況でも、既に打つ手がなければ「悲劇」であって、非常事態ではない。

この違いを忘れないでほしい。気候変動は深刻だが、まだ打つ手がある。だから非常事態なのだ。7月末には約1万4000人の科学者が連名で、地球の気候は非常事態にあると改めて宣言している。

大気中の二酸化炭素(CO2)の値は、今や途方もなく高い。この80万年ほどで最高の水準だ(ちなみに現生人類の出現は約40万年前)。

過去1万年、つまり農耕生活が始まり、人類の文明が育まれた時期の気候は極めて安定していた。私たちの知る文明や社会が発展できたのは、安定した気候のおかげだ。

しかし現状のCO2値は人類史上かつてなく高い。これは非常事態であり、迅速な対応が必要だ。

CO2はこれまでもずっと大気中に滞留し、そのおかげで地表の温度は温暖に保たれ、多様な生命が栄えることができた。それは事実だが、だからといってCO2は増えても問題ないという結論にはならない。大気中の温室効果ガス濃度の上昇が危険な気候変動を招いているのは事実であり、その点を今さら疑う科学者はいない。

ではなぜ一部の人々は、私たちが本当に危険な方向に向かっていることを示す圧倒的な科学的データを否定したがるのか。

その疑問に対する答えも、科学が与えてくれる。心理学的な知見によれば、心に深く根差した世界観や価値観、信念と相いれない客観的情報に接した場合、人はその情報を拒絶する傾向が強いそうだ。

気候の専門家に聞けば、この危険な気候変動を招いたのは人類だという答えが異口同音に返ってくる。専門家が膨大な数の論文を検証して作成するコンセンサスレポートでも、繰り返し同じ結論が出ている。

では、私たちは気候変動に関するあらゆる問題を既に知り尽くしているのだろうか。

いや、そんなことはない。あり得ないし、そんな主張は誰もしていない。それでも、これだけは確実に分かっている。いま私たちは非常事態の真っただ中にあり、今すぐ大胆な行動を起こし、この危機に対処しなければならないということだ。

健全な環境と健全な経済は両立できず、そのどちらか一方を選ぶしかないというのも誤った議論だ。むしろ科学は、健全な環境があってこそ健全な経済を維持できると教えてくれている。

ウッドウェル気候研究センターは現在、この問題で経営コンサルティング大手のマッキンゼーと協力しているが、その共同作業からも、気候変動が経済的繁栄に重大なリスクをもたらすことが分かった。

もう待ったなしだ。きれいなエネルギー、再生可能なエネルギーに投資しよう。気候変動を食い止めるために必要な変化をもたらす事業に投資しよう。いま惜しまずに先行投資をすれば、いずれ投じた額以上の利益が戻ってくる。

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