最新記事

AUKUS

中国に断固対処する決意の表れ「AUKUS」、成功のカギを握るのはインド

India Welcomes AUKUS Pact

2021年9月22日(水)17時55分
C・ラジャ・モハン(シンガポール国立大学南アジア研究所所長)

「ミニラテラル」が合理的

オーストラリアの識者には、なんらかの形でフランスに埋め合わせをするべきだという声もある。インドはそこで大きく貢献できるはずだ。

インドとフランスの戦略的協力関係は、近年急速に拡大しているが、その背景には、フランスがこの地域に海外領土や海軍基地を持つ事実がある。インドと提携すれば、フランスはこうした海外資産を防衛する能力を高められる。

インドにしても、フランスがこの地域にプレゼンスを維持し、フランスとの安全保障面での協力を強化することに強力なインセンティブがある。だとすれば、インドがフランスから潜水艦を調達する契約を結ぶという手もあり得る。

インド指導部には、AUKUSはインドと日本を外してクアッドを弱体化させるとの見方もあるかもしれない。だがインドは既に核大国で、原潜の独自開発も進めている。日本はAUKUSに加わるには原子力の軍事利用への抵抗が強過ぎる。インドにしてみれば、NATOのような単一の同盟よりインド太平洋の有志国による重複する複数のミニラテラル(少数国)の軍事協力体制を構築したほうが理にかなう。

インドはAUKUSという新イニシアチブがオーストラリアとイギリスをインド太平洋におけるアメリカの長期的戦略パートナーにすることも期待している。AUKUSを東の「アングロスフィア(英語圏諸国)」の復活とみる向きもあるだろうが、それは誤りだ。例えばニュージーランドは長年核アレルギーがあり、中国の脅威についてアメリカとは意見が異なり、AUKUSに参加する気もない。

AUKUSの主な成果は、アングロスフィア離れに歯止めをかけたこと。ニュージーランド同様、オーストラリアとイギリスも最近まで中国の脅威を軽視し、経済的関与に乗り気だった。2000年代以降、クアッド構築の最初の取り組みにオーストラリアは猛反対。キャメロン政権下のイギリスも中国寄りで中国の挑発に対しては弱腰だった。

オーストラリアが従来型潜水艦から原子力潜水艦へのアップグレードを決めた動機は、インドにも共通する。中国の急速な近代化とインド太平洋でのプレゼンス拡大に、インドは攻撃型原潜への移行も積極的に検討している。

インドの攻撃型原潜計画のカギは、インド太平洋における中国の海軍力増強にいかに対処するかだ(インドは弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の開発計画も進めるが、そちらは核武装した敵対国〔中国とパキスタン〕に対する抑止力となる報復能力を確保するためだ)。インドは1988年と2012年の2回にわたりロシアから攻撃型原潜をリース、19年には3回目のリースについてもロシアと合意した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政府閉鎖で低所得者向け光熱費支援に支障、各州に資

ビジネス

米メタ、来年の設備投資拡大を予想 積極的なAI投資

ビジネス

ムーディーズ、ニデックをBaa1に格下げ 引き続き

ビジネス

マイクロソフト7─9月売上高、クラウド好調で予想超
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 4
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中