最新記事

ワクチン

静脈血栓リスク、ワクチン接種後よりもコロナ感染後の方が12倍高く 英研究

2021年9月22日(水)13時00分
青葉やまと

スペインの老人ホームで3回目のワクチン接種がはじまった REUTERS/Marcelo del Pozo

<血栓はワクチンを忌避する大きな理由のひとつだが、コロナ感染時の血栓リスクはワクチンの比ではないという>

オックスフォード大学が協力しイギリスの複数の大学が共同して行った研究によると、コロナ感染後に動脈ないし静脈に血栓ができるリスクは、ワクチン接種後をはるかに上回ることが判明した。

研究チームは、「血小板減少症」「静脈血栓塞栓」「動脈血栓塞栓」の3つの症状の発生率を検証した。すると、いずれの症状についても、ワクチン接種後の発症リスクは新型コロナウイルス感染後の同リスクを大きく下回ることが判明した。最も差がついた静脈血栓塞栓では、コロナ感染時の発症リスクは接種時の12.6倍となった。

分析にあたりチームは、昨年12月から今年4月までにワクチン接種を受けたイギリスの成人約2900万人のデータ、および国の死亡統計を入手し、コロナ陽性者のデータベース、そして英国民保健サービス(NHS)が保有する入院データと照合した。

そのうえでチームは、第1回目の接種を受けてから28日以内、または感染の陽性反応が出てから28日以内の症状を、それぞれに起因する事象と位置づけた。当該の入院および死亡事例のうち、「血小板減少症」「静脈血栓塞栓」「動脈血栓塞栓」のいずれかの症状が確認されたものについて、ワクチン接種後と感染後でそれぞれ発生頻度を比較した。

結果、いずれの症状についてもワクチン接種後に平常時比で一定のリスク増がみられたものの、コロナ感染時との比較では大きく下回る結果となった。

症状ごとのリスク詳細は......

3つの症状を個別に見てみると、出血のおそれを高める「血小板減少症」のリスクは、オックスフォード製ワクチン接種後に平常時比で1.33倍となった。これに対し感染後では、平常時比5.27倍にまで増加していることが確認された。

また、血栓によって静脈が詰まる「静脈血栓塞栓」については、同ワクチン接種後に平常時の1.10倍となったのに対し、感染後には13.86倍にまで上昇していた。ワクチン接種後と比べると、感染後の発症リスクは12.60倍にのぼる計算となる。

動脈が詰まる「動脈血栓塞栓」についても、ファイザー製ワクチンの接種後に平常時比で1.06倍となったのに対し、感染後は2.02倍と高かった。

今回の研究では、ワクチンの種別によるリスクの差異は算定されていない。その理由として、症例自体がそもそも稀であるため、統計上十分なデータを得にくいという事情がある。研究に関与していない第三者のコメントとして、イギリス医師協会の元会長であるピータ・イングリッシュ博士は英ガーディアン紙に対し、「これら有害な事象は稀なものであり、そのため特定のワクチンごとの頻度を正確に数値化することが困難になっているのです」と指摘し、ワクチン別のリスクについては追加の研究が待たれると述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ

ワールド

バイデン・トランプ氏、6月27日にTV討論会で対決

ワールド

ロシア、ウクライナ攻勢強める 北東部と南部で3集落

ワールド

米、台湾総統就任式に元政府高官派遣
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中