最新記事

食虫植物

虫の捕食と花粉媒介を共存させるユニークな食虫植物を発見

2021年8月25日(水)17時00分
松岡由希子

北アメリカの身近な植物が食虫植物だった Credit: Danilo Lima

<北米西海岸の湿地に生息し、北アメリカの都市近郊にも広く生息する植物が食虫植物であることが初めて確認された>

オモダカ目チシマゼキショウ科イワショウブ属に分類される単子葉植物「ウェスタン・フォルス・アスフォデル」は、米アラスカ州からカリフォルニア州までの北米西海岸の湿地に生息し、夏には、粘着性のある腺毛で覆われた長い茎にブヨやユスリカのような小さな虫がくっつく。

このほど、北アメリカの都市近郊にも広く生息するこの植物が食虫植物であることが初めて確認され、一連の研究成果が2021年8月17日付の「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

遺伝子に食虫植物でよくみられる変異があることを偶然発見

加ブリティッシュコロンビア大学ショーン・グラハム教授らの研究チームは、オモダカ目のゲノム解析を行っていた際、「ウェスタン・フォルス・アスフォデル」の遺伝子に食虫植物でよくみられる変異があることを偶然発見した。

そこで、この植物が食虫植物であるかどうかを検証するべく、窒素の安定同位体のひとつ「窒素15」でラベルしたミバエを餌として茎に付着させ、この植物がミバエを消化するにつれて吸収する「窒素15」を追跡した。

この実験の結果、この植物の窒素含有量は周囲の植物よりも総じて少なかったものの、「窒素15」の量は大幅に高かった。研究チームの分析によると、「ウェスタン・フォルス・アスフォデル」は窒素の約64%を捕食した虫から摂取していると推定される。

Fresh-Field-Specimens-of-Triantha-occidentalis-777x518.jpg

Credit: Qianshi Lin

Triantha-occidentalis-From-North-Cascades-National-Park-777x518.jpg

Credit: Qianshi Lin

捕食する虫と送粉者を選り分ける特性を持つ

ハエトリグサなどの食虫植物は、送粉者による花粉の媒介を妨げないよう、虫媒花から離れた位置で虫を捕らえるのが一般的だ。一方、「ウェスタン・フォルス・アスフォデル」は虫媒花の近くで虫を捕食する。

虫を捕食すると、受粉を助ける媒介者が減ってしまうため、一見、虫の捕食と花粉媒介は相反する。しかし、「ウェスタン・フォルス・アスフォデル」は捕食する虫と送粉者を選り分ける特性を持つとみられる。

研究論文の共同著者で米ウィスコンシン大学マディソン校の植物学者トーマス・ギヴニッシュ教授は、「この植物は、腺毛の粘着性がそれほど高くないため、小さな虫だけを捕らえ、送粉者となる蜂やチョウといった大きな虫を逃がしているのだろう」と考察している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中