最新記事

アフガニスタン

「パックス・アメリカーナ」はアフガンで潰え、テロと中国の時代が来る

PAX AMERICANA DIED IN KABUL

2021年8月24日(火)19時25分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)
米軍ヘリと輸送機

撤退に向け輸送機に格納される米軍ヘリ・ブラックホーク SGT. 1ST CLASS COREY VANDIVERーU.S. ARMYーHANDOUTーREUTERS

<不名誉な形でのアメリカ最長の戦争の終わりは、「アメリカによる平和」と「欧米の覇権」の終わりを象徴する出来事となる>

バイデン米大統領が性急かつお粗末なやり方で米軍撤退を進めた結果、アフガニスタンは敵の手に落ち、アメリカ最長の戦争は不名誉な形で幕を閉じた。この瞬間、以前からほころびが目立っていたパックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)と、長年にわたる欧米の覇権は終焉を迎えたと言えそうだ。

既に中国の深刻な挑戦に直面しているアメリカにとって、この戦略的・人道的大失態が国際的な地位と信頼性に与える打撃は回復不能かもしれない。アメリカの同盟パートナーは、自分たちが危機に陥ってもアメリカは当てにならないと感じたはずだ。

アメリカが同盟相手を見捨てるのは、今回が初めてではない。最近も2019年秋にシリア北部のクルド人を見放し、前進するトルコ軍の前に放り出した。

アフガニスタンにおける自業自得の敗北と屈辱は軍事的リーダーシップではなく、政治的リーダーシップの失敗によるものだ。バイデンは現地の状況を省みず、軍首脳の意見を無視して米軍の帰還を命じた。その結果、20年に及ぶアフガニスタン戦争は反政府勢力タリバンの「政権奪還」という形で終わった。

ベトナムでは5万8220人の米国人(主に徴集された兵士)が戦死したのに対し、アフガニスタンで20年間に命を落とした米兵は2448人(全て志願兵)だった。しかし、敗北の地政学的意味合いはベトナム戦争よりはるかに大きい。

パキスタンで生まれ育ったタリバンに世界的野心はないかもしれないが、その暴力的なイスラム主義思想は、非スンニ派イスラム教徒に対する敵意を現代社会に対する怒りに変えるイスラム過激派の国際的運動と深くつながっている。

世界的なテロの再燃を後押し

タリバン政権の復活は他の過激派グループを勢いづけ、世界的なテロの再燃を後押しするはずだ。

タリバンが支配する「アフガニスタン・イスラム首長国」は、国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)の残党、パキスタンのテログループなどの聖域になる可能性が高い。

最近の国連安全保障理事会の報告書によると、「タリバンとアルカイダは依然として緊密に連携」しており、パキスタン情報機関と関係が深いハッカニ・ネットワークを通じて協力を維持している。

シリアという国家の崩壊はISによる「カリフ国」宣言とイラクへの勢力拡大を招き、ヨーロッパに大量の難民を流入させた。世俗的な民主主義国家アフガニスタンを建設しようとした試みの失敗は、それよりはるかに大きな脅威になるはずだ。

アフガニスタンにおけるタリバンの絶対的権力は、遅かれ早かれアメリカの国内外で安全保障上の利害を危険にさらすだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EUのガソリン車販売禁止撤回、業界の反応分かれる

ワールド

米、EUサービス企業への対抗措置警告 X制裁金受け

ワールド

北・東欧8カ国首脳、EUの防衛強化訴え ロシアは「

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案拒否の公算 17日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中