最新記事

日米株価

株価の日米格差は縮小へ ワニの口は年内に閉じる

2021年8月10日(火)20時21分
井出 真吾(ニッセイ基礎研究所)

問題は米国株がどのくらい下落するかだ。FRBが金融緩和を縮小するかどうかといえば、ほぼ100%縮小に向かうことは市場参加者の誰もが理解している。したがって、実際にFRBが緩和縮小を決定しても大きなサプライズにはならないはずだが、前回(2014年)の経験からも緩和縮小が決まると株価は一定期間の調整局面に入るだろう。

最大のカギは縮小開始時期と縮小ペースで、市場のコンセンサスとなっている「21年末までに緩和縮小を決定、22年1月~3月に縮小開始、22年内に縮小完了(緩和措置終了)」に近い内容となるかが注目される。

仮に米国の物価上昇率や労働市場の回復度合いがFRBの想定より強く、21年内に縮小開始を前倒しするようなことがあれば、米国株は10%~15%急落する余地がある。NYダウは3万ドルを割る可能性もあろう。

当然、その場合は日本株も下落を余儀なくされるが、米国株ミニバブル終了の"もらい事故"なので下落率は米国株の半分程度か、それより小さく済むのではないか。そもそも現在の日本株(日経平均2万7,000円台)は全く割高ではないうえ(やや割安)、7月下旬~8月上旬の第1四半期決算発表で業績の上ブレ期待が高まると日本株の割安度が増す。

加えて、ワクチン接種率(必要回数の接種人数)が人口の40%程度に達すると、冒頭に述べた海外の機関投資家のチェックリストを通過しやすくなるはずだ。株式市場は先取りするのが常であることを考えると、接種率30%~35%で動き出す投資家がいるかもしれない。

そうなれば日本株の出遅れが目立つことになる。米国株からの退避先としても日本株市場に投資マネーが流入しやすくなるだろう。結果、今春以降に開いたワニの口が閉じる公算が大きい。

ただし、このシナリオには条件がある。ワクチン接種が進むことは言うまでもないが、肝心なのは日本政府が緊急事態宣言を9月以降に再々延長せず、ワクチン接種率などに応じて段階的に経済活動の正常化を進めることだ。世論形成に影響力を持つメディア等の責任も大きい。

米中対立が再燃しないことも必要条件だ。現状は中国政府が中国企業の米国上場を規制するなど"資本市場の分断"にとどまっている(中国政府は中国企業のコングロマリット化を予防することが真の狙いかもしれない)。あくまでリスクシナリオだが、仮に米中経済圏の分断に発展することがあれば、日経平均は2万5,000円程度まで下落する可能性が出てこよう。

1220ide.jpg[執筆者]
井出真吾(いでしんご)
ニッセイ基礎研究所
金融研究部 上席研究員 チーフ株式ストラテジスト

ニューズウィーク日本版 ジョン・レノン暗殺の真実
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月16日号(12月9日発売)は「ジョン・レノン暗殺の真実」特集。衝撃の事件から45年、暗殺犯が日本人ジャーナリストに語った「真相」 文・青木冨貴子

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ブラジルのコーヒー農家、気候変動でロブス

ワールド

アングル:ファッション業界に巣食う中国犯罪組織が抗

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中