最新記事

世界経済

経済学の常識を捨てよ...利己的な活動こそ経済発展させるとの考えは間違いだ

THE CHANGING MAP OF ECONOMICS

2021年8月3日(火)17時34分
カウシク・バス(コーネル大学教授)
リモートワーク(イメージ画像)

ETERNALCREATIVE/ISTOCK

<新型コロナウイルスの登場によって働き方から消費の在り方まで、経済学の常識を根本から見直すべき時代が到来した>

3年に1度開催される国際経済学協会世界大会は、世界の経済学者が集まる重要な場と位置付けられてきた。貧しい国と豊かな国の研究者や政策当局者が一堂に会する貴重な機会になっているからだ。この点では、コロナ禍により1年延期されて、オンラインでの会合になったものの、今年7月初めに行われた第19回大会も例外でなかった。

今年の大会で繰り返し議論されたことの1つは、いま資本主義と世界経済が岐路に立たされているという点だった。

新型コロナウイルス感染症に対処する経験を通じて、私たちは多くのことを学びつつある。私たちは、ビデオ会議システムを利用して講義や会議を行ったり、オンラインショッピングで自宅に居ながらにして買い物をしたりするようになった。これまで必要以上に多くの時間をオフィスで過ごしていたことに気付き、もっとリモート勤務を増やせることも学んだ。

一方、高い賃金を受け取って働く人と低賃金で働かざるを得ない人の間の格差は、ますます拡大する可能性が高い。グローバル化の進展により、世界規模での人材争奪戦が活発化すると予想できるからだ。

今後、グローバル化がいっそう加速し、国境を越えたアウトソーシングが盛んになるだろう。それに伴い、労働市場の在り方、各国の政治状況、国際紛争の性格も大きな影響を受ける可能性が高い。

環境にやさしい活動でもGDPは増える

このような新しい世界を理解するためには、経済学の常識を大きく転換する必要がある。これから経済学界でどのような新しい知見が生まれて、その知見を生かすために政府がどのような規制を設けるべきかは、まだ見えてきていない。

それでも、人類が環境に及ぼす負荷の大きさを考えると、これまでのような経済成長を続けることが不可能であることは明らかだ。とはいえ、低成長時代の到来が避けられないわけではない。むしろ経済成長は加速すると、私は考えている。

成長の減速を予測する論者は、GDPについて誤解している。GDPを増やすためには、環境にダメージを及ぼすような消費を増やすことが避けられないと思い込んでいるのだ。このように考える人は多いが、実際にはそうとは限らない。

アートや音楽や教育を楽しんだり、人々の健康状態を改善したり、寿命を延ばしたりするための活動も全て、GDPを押し上げる要素になる。この種の活動は、環境に害を及ぼさずに行うこともできる。

政府の規制を改めれば、GDPの成長ペースを加速させることは可能だ。その際は、GDPの中身を大きく転換させて、労働力のかなりの割合を創造的な活動に費やすようにする必要がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中