最新記事

香港

香港よ、変わり果てたあなたを憂いて

A BESMIRCHED ORIENTAL PEARL

2021年7月21日(水)18時47分
阿古智子(東京大学大学院教授)

210713P24_AKO_05.jpg

立法会選挙の民主派予備選で勝利した「抗争派」16人のうち15人がその後逮捕された Chan Long Hei for Newsweek Japan

1面は「私たちはリンゴ(日報)を支持する」という見出しで、同社前で別れを惜しむ読者らの写真が掲載された。別冊では、中国取材班が中国警察の妨害を受けながらも、ノーベル平和賞受賞者・劉暁波(リウ・シアオポー)への取材を続けた経験などを伝えた。

クラウドで蘋果日報を「保存」

この日以降は、同紙ウェブサイトの記事も閲覧できなくなる。香港の人々はクラウドのグーグルドライブを使い、PDFファイルにまとめ、重要な記事を保存しシェアしていった。26年に及ぶ蘋果日報記者たちの真実を伝えようという努力が、数々のスクープや歴史的な記録が全てなかったことにされるなんて、受け入れられるはずがない。香港人が確かに歩んできた歴史のページを、全て真っ黒にされてたまるものか。そんな気概が伝わってくる。

どのような時でも、香港の人たちは自由かつ豊かな表現で、自らの感情や考えを表してきた。私も表現することを諦めない香港の人たちと共に、彼らが表現し続けるためのプラットフォームを私の本を出した出版社のウェブサイトに開設した。

第1回目に翻訳者の「エスター」が寄せてくれた言葉を、大学の授業で学生たちに紹介していて、思わず涙が出てしまった。彼女は言う。「私にとって、このプロジェクトに関わることは、罪の償いの一種なのです」と。

狭い香港では、友だちの友だちが容易につながっていく。エスターの友だちの友だちが裁判にかけられ、または海外に亡命し、または実刑に服している。彼女にとって、遠い存在ではない彼らは、最前線に立って戦った。彼らと同じように、生まれ育った香港に深い感情を持つのに、自分は全力で戦わず、刑務所の外の空気を吸っているのだ、と。


習近平総書記、あなたは、カラフルで、雑多で、ダイナミックだった香港の社会から、色も、音も、動きも奪ってしまうのですか。「中華民族の偉大な復興」のために。

(筆者は香港大学で博士号取得。著書に『香港 あなたはどこへ向かうのか』〔出版舎ジグ〕がある)

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米中外相が対面で初会談、「相違点の管理」で合意 協

ビジネス

ドイツ議会、540億ドル規模の企業減税可決 経済立

ワールド

ガザの援助拠点・支援隊列ルートで計798人殺害、国

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中