最新記事

感染対策

やりすぎてしまった? 残酷すぎるコロナCM動画に賛否 豪

2021年7月21日(水)18時10分
青葉やまと

さらに専門家からは、このような刺激的な動画は逆効果だとする意見も出ている。メルボルンの小児医学研究所で主任研究員を務めるジェシカ・カウフマン博士は、英ガーディアン紙に対し、「私たちの経験上、とくにワクチン接種に関しては、恐怖をあおるキャンペーンや病気についての恐ろしいメッセージなどは、実際にはワクチンの副作用に関する恐怖を掻き立ててしまうことがあります」と述べている。

一方、1987年にエイズの危険性を警告する刺激的なテレビCMを製作したサイモン・レイノルズ氏は、シドニー・モーニング・ヘラルド紙に対し、ありきたりなCMよりも格段に良いと語る。人々に行動を促すという意味で、高い説得力を持つ本動画は優れているとの見解もあるようだ。

民間CMに惜しみない拍手

政府広告が痛烈な批判を受けてから1週間ほど経ったころ、民間の団体が新たなCM動画を公開した。同じくワクチン接種を勧める内容ながら、こちらは接種で日常生活を取り戻そうというポジティブな構成となっており、公開と同時に評判を呼んでいる。南東部ビクトリア州のメルボルン交響楽団がプロデュースし、ほかの複数のパフォーマンス団体が撮影に協力した。

動画は「ビクトリア州の人々よ」「コロナのロックダウンのせいで室内に閉じ込められる日々は辛いことでしょう。我々も同じです」というセリフで幕を開ける。オーケストラ奏者、バレエダンサー、劇団員など、さまざまなアーティストたちが前向きなメッセージをカメラに語り、次の話者へとバトンを渡してゆく形式だ。

動画は興行イベントを比喩的に使いながら、ユーモアとストーリー性を持って展開してゆく。あるカットでは女性がカメラに向かい、「ワクチンを打てない人もいます。だから、そうした人々も安全に過ごせるように、アンサンブルのような皆の協力が必要です」と語りかける。ワクチンを打つことができない若者の神経を逆撫でしてしまった旧CMとは明らかに異なる路線だ。

あるバイオリニストは「人生最大級のステージの前には、誰しも緊張するのがふつうです」と語り、不安ならかかりつけ医に事前の相談を、と勧める。ピアノ奏者は「ネットで読める情報には物語にひどい破綻があるものもあるからね」と、デマの危険性を粗末な映画に例えながら警告する。バックステージに立つ女性は「コロナに最後のカーテンコールを贈りましょう」と述べるなど、演劇の世界とうまく絡めながら視聴者の興味を惹いてゆく巧みな構成だ。

さらに、これとは別にもう1本、ビクトリア州の社会事業団体が製作した動画も話題になっている。ごくふつうに暮らす人々が登場し、結婚式を挙げたくて待ちきれないなど、コロナ収束後のそれぞれの夢を語る。最後に、そのためにもワクチン接種を、と呼びかける内容だ。こちらも力強い曲に乗せた前向きなトーンにまとまっており、好評を博している。

まるで『北風と太陽』の寓話のように、温かなトーンで語りかける動画の方が、かえって人々の心に響いているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米加州の2035年ガソリン車廃止計画、下院が環境当

ワールド

国連、資金難で大規模改革を検討 効率化へ機関統合な

ワールド

2回目の関税交渉「具体的に議論」、次回は5月中旬以

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米国の株高とハイテク好決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中