最新記事

シリア

10年戦争で崩壊したシリア、国民をさらに苦しめる「最悪の飢餓」が迫る

Biden to Prod Putin on Syria Relief

2021年6月17日(木)17時50分
コラム・リンチ(フォーリン・ポリシー誌外交問題担当)

210622p26_sy02.JPG

シリアのフメイミム空軍基地に着陸した長距離爆撃機の乗組員を出迎えるロシア軍兵士 Ministry of Defence of the Russian Federation/Handout via REUTERS

ロシアは、シリア国内の支援物資輸送はシリア政府の監督の下で首都ダマスカスから各地の戦線へ送られるべきだと主張してきた。だがシリア政府は、国連がそうした輸送ルートを確立するのを大部分妨げてきた。過去には、必要不可欠な支援物資や医療物資の反政府勢力支配地域への輸送をたびたび阻止。そうした地域の住民を飢えさせ、国外や国内の政府支配地域に逃れざるを得なくすることを狙った軍事的戦略の一環だった。

「救えるはずの命が......」

「反政府勢力支配地域への輸送を定期的に行っても、越境支援の規模と範囲には及ばないだろう」と、OCHAの評価は指摘している。「越境支援が認められなければ、北西部の支援を必要とする民間人340万人は、10年前の内戦勃発以降で経験したことのない窮地に陥ることになる。飢餓が拡大し医療を必要とする人々が放置され、水も手に入りにくくなる。国連による越境支援活動の中止でさらに物資が不足すれば、救えるはずの命が救えなくなるだろう」

2014年7月に国連安保理は人道支援として、4カ所の国境検問所から反政府勢力の支配地域に物資を搬入することを承認した。このとき認められた検問所は、ヨルダン国境のアル・ラムサ、トルコ国境のバブ・アル・サラムとバブ・アル・ハワ、イラク国境のアル・ヤルビヤだ。

しかし、昨年1月にロシアと中国の反対で、越境支援のルートは2カ所に限定された。7月にはロシアのさらなる圧力を受けて、バブ・アル・ハワのみとなった。

バイデン政権は発足当初から、シリアの人道的危機を優先課題としてきた。今年3月にブリンケンは安保理に対し、「困窮しているシリア人がどこにいてもできるだけ早く手を差し伸べられるようにしたい」と訴えた。

トーマスグリーンフィールドはトルコ訪問中に、アメリカが人道支援に2億4000万ドル以上を拠出すると発表。「最後の人道的な国境を閉鎖するという残酷さは計り知れない」と語った。「国際的なNGOのコミュニティーや難民から私が聞いたところでは、国境を通過できなければ人々は死ぬだろう」

米上院および下院の外交委員会を中心とする超党派の議員は6月7日、ブリンケンに宛てた公開書簡で越境支援の重要性を主張した。

「支援を全面的に再開することは一連の人道的な大惨事のさらなる悪化を軽減させるためのカギとなる。国連安保理が国際的な平和と安全を維持する力を弱めようという、ロシアの動きに対抗するためにも有効である」

「越境人道支援を排除しようというロシアの試みは、東地中海へのアクセスを維持して、国際社会にバシャル・アサド政権の正統性を再び認めさせ、ロシアの戦略的足場を確保することにつながる(シリアの)復興の資金集めの再開を目指すという、より大きな目的の一環である」と、書簡は指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏政権崩壊の可能性、再び総選挙との声 IMF介入リ

ワールド

再送トランプ氏とFRBの対立深まる、クック氏解任で

ビジネス

米8月CB消費者信頼感指数97.4に低下、雇用・所

ビジネス

米耐久財コア受注、7月は+1.1% 予想以上に増加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    「ありがとう」は、なぜ便利な日本語なのか?...「言…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    トランプ、ウクライナのパイプライン攻撃に激怒...和…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中