最新記事

ウイルス起源

「研究所流出説」を甦らせた素人ネット調査団、新型コロナの始祖ウイルスを「発見」!

Exclusive: How Amateur Sleuths Broke the Wuhan Lab Story

2021年6月4日(金)21時25分
ローワン・ジェイコブソン

その宝物に出くわしたのは、あきらめかけた時だった。昆明医科大学の院生が2013年に提出した60ページに及ぶ修士論文だ。タイトルは「未知のウイルスによる6人の重症肺炎患者の分析」。患者1人1人の症状と治療の進展を事細かく述べた上で、執筆者は疑わしい「犯人」を挙げていた。「シナキクガシラコウモリ、あるいはその他のコウモリ由来のSARSのような(症状を引き起こすコロナウイルス)」の仕業だ、と。

シーカーは淡々と、論文のタイトルとリンクをツイッターに投稿した。2020年5月18日のことだ。次に、中国疾病対策予防センターの博士研究員(ポスドク)が執筆した同じテーマの論文を調べると、内容の多くは最初の論文と一致していた。鉱山労働者のうち4人はSARSウイルスに似たウイルスの抗体検査で陽性だったこと、これらの検査結果は全て、武漢の研究所に報告されていたことも分かった(シーカーが2つの論文のリンクを貼った直後に、中国はCNKIのアクセス管理を変更し、彼が行なったような調査はできなくなった)。

主要メディアの無関心に呆れる

2012年にSARSウイルスに似たウイルスが見つかり、その事実が隠蔽され、武漢の研究所が問題の鉱山からさらにサンプルを採取して持ち帰るためにスタッフを派遣したのだとすれば、これは一大スクープだ。欧米の主要メディアはすぐさま飛びついて派手に報道するはずと思ったが、何週間も話題にすらならなかった。イギリスではサンデー・タイムズが特集を組んだほか、少数のメディアが報道したが、米メディアは全く取り上げなかった。

「メディアは大騒ぎになると思っていた」と、シーカーは本誌に打ち明けた。「事実や因果関係に対する関心のなさに、あきれるばかりだった。潤沢なリソースを持つ主要メディアが、調査報道で(アマチュア集団に)大幅な後れを取るなんて、さっぱり理解できない」

DRASTICは数日のうちに、墨江ハニ族自治県にある鉱山の位置を突き止めたが、主要メディアがそのツイートに注目し、記者たちが我先に問題の坑口を目指し始めたのは、2020年も終わりに近づいてからだ。

※後編はこちら:武漢研究所は長年、危険なコロナウイルスの機能獲得実験を行っていた

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 5
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 6
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中