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「宿題なし・定期テストなし」でも生徒が勝手に勉強する公立中学校の『肯定感の育て方』

横浜創英中学・高等学校校長の工藤 勇一さん

横浜創英中学・高等学校校長の工藤 勇一さん(撮影:岡村智明)


子供の自主性はどうすれば育つのか。横浜創英中学高等学校校長の工藤勇一さんは、2014年から6年間務めた名門千代田区立麹町中学校の校長時代に、宿題、定期テスト、クラス担任制を廃止した。「日本の学校教育は『起立、気をつけ、礼、着席』に象徴されるように、すべて命令形。これでは主体性は育ちません」という。工藤さんが生徒に繰り返し使ってきた3つの魔法の質問を紹介しよう――。

※本稿は、『プレジデントFamily2021春号』の一部を再編集したものです。

自分で決められる子になる「3つの言葉」

私はおととしまで、東京都の千代田区立麹町中学校で校長を務めていましたが、毎年、中1の入学後に着手するのは、生徒の主体性を取り戻すリハビリでした。

今の子たちの中には、幼いときから勉強も遊びも与えられ続け、親や大人の指示にしたがってきた子が少なくありません。

そういう子は、楽しいことも、やるべきことも、外から与えられるのが当然と、無意識で思ってしまっています。その結果、自分で決めて行動することができない子が多いのです。

また、日本の学校教育は、「起立、気をつけ、礼、着席」に象徴されるように、すべて命令形です。これでは主体性は育ちません。

主体性を失ってしまった子を変えるために、問題が起きるたびに私たちが繰り返し使ってきた三つの言葉があります。

まず一つ目の言葉は「どうしたの?」です。お互いに現状を把握する言葉です。その回答がどんなに勝手な理由でも叱ったりはしません。

二つ目は「じゃあ、この後、君はどうしたいの?」です。この質問に答えられない子が大半です。今までそう問われる経験がなかったから当然です。

そこで三つ目に「何か手伝えることはある?」と尋ねます。最初のうちは解決策をこちらから提案し、最終的にどうするかは生徒に任せるようにしていました。

私たちは学校でトラブルが起きたときにも、頭ごなしに叱ったりせず、必ずこの三つの言葉を使って生徒と対話してきました。三つの言葉がすべて質問形になっている点がポイントです。

「自分で国や社会を変えられると思う」率が3倍近く多い

自分で決めるという経験を積み重ねるうちに、子供たちの自己肯定感はどんどん上がっていきます。その証拠とも言える興味深い調査結果があります。

世界の若者が対象の「18歳意識調査」で「自分で国や社会を変えられると思う」という項目で「そう思う」と答えた日本の若者は18.3%で9カ国中、最下位でした。

しかし、同じ質問を麹町中の3年生にしたところ、50.5%もの生徒が「そう思う」と答えたんです。自己決定を繰り返す中で自分に自信がついたのだと思います。

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