アングル:自動車各社、自動運転推進にブレーキ 開発巨費と安全性が壁
写真はテスラのロボタクシー。2025年6月、米テキサス州オースティンで撮影。REUTERS/Joel Angel Juarez
Nora Eckert Abhirup Roy
[23日 ロイター] - 完全な自動運転の実現に向け、自動車各社は今、重要な節目となる技術の開発競争を繰り広げている。それは「アイズオフ(目を離せる)」と呼ばれるシステムだ。これが実現すれば、システムから運転交代の警告が出ない限り、ドライバーは道路から目を離してスマートフォンを操作したり、ノートパソコンを開いたりすることが可能になる。
自動車各社は長年、速度やハンドルを自動制御する運転支援システムの改良を重ねてきた。ドライバーが運転席で別の作業を行えるようになれば、メーカー側にとっては、自動運転技術に投じた巨額の投資を回収するための次なる一歩となるはずだ。
米フォード・モーターのダグ・フィールド最高EV・デジタル・デザイン責任者は、「われわれは間もなくドライバーの時間を節約できるようになり、しかもそれを非常に手頃な価格で提供できる」と語る。同社は2028年から、手頃な価格帯の電気自動車(EV)にこの「アイズオフ」システムを導入する計画だ。
しかし、業界内で「レベル3」の自動運転と呼ばれるこのアイズオフ技術の価値を巡り、議論が白熱している。一部の経営幹部や専門家は、人間のドライバーとシステムの間で運転の主導権を引き渡したり取り返したりするのは非現実的かつ危険であり、厄介な責任問題を引き起こすと指摘している。
巨額の開発費を正当化できるほど、多くの消費者がこの技術を買い求めるのか、疑問視する声もある。
自動車部品大手ボッシュの北米事業トップ、ポール・トーマス氏は1月、家電IT見本市「CES」の会場でロイターに対し、「レベル3が財務的に理にかなう日が来るのかどうか、われわれには分からない」と語った。
<滞るレベル3の開発>
10年前には、自動車メーカーの首脳陣は、今頃には自動運転車が世の中にあふれていると予測していた。しかし、技術的な壁、膨らむコスト、そして規制の不透明さが幅広い普及の足かせとなってきた。その間、各社は完全自動運転の基盤となる技術を、常に人間の監視を必要とする、より高度な運転支援機能として提供してきた。
レベル3とされるアイズオフのシステムは、業界が定める自動運転の段階において、レベル1(クルーズコントロールなどの基本機能)とレベル5(あらゆる条件下での完全無人運転)の中間に位置づけられる。
現在、テスラの「フルセルフドライビング」を含め、市販されているほぼすべての運転支援システムは、ドライバーの常時監視が必要なレベル2に分類される。フォードのほか、ゼネラル・モーターズやホンダなどは、アイズオフが可能なレベル3技術の導入計画を明らかにしている。
コンサルティング会社マッキンゼーが最近まとめた業界関係者への調査によれば、高速道路で機能するレベル3システムを開発するコストは、最大で15億ドル(約2340億円)に上るという。これは、市街地で機能するレベル2システムの約2倍だ。
「レベル3のシステムに挑む自動車メーカーも、それを試した消費者も、ある事実に気づき始めている。それは、費やした労力に見合うだけの成果は得られないということだ」。米アルファベット傘下で自動運転技術を手がけるウェイモの元最高経営責任者(CEO)で、現在はEVメーカー・リビアンの取締役を務めるジョン・クラフチック氏は、現状をそう語る。
マッキンゼーによれば、コストへの懸念からすでにレベル3への野心を引っ込めた企業もあるという。彼らはその代わりに、より安価なレベル2システムの能力を高めることに再び注力している。
米国で唯一レベル3の自動運転技術を導入していた独メルセデス・ベンツが、最近その展開を一時停止した。理由は、厳しい制限速度や利用エリアの限定といった条件により、消費者の需要が伸び悩んだためだ。同社は当面の間、ドライバーの監視を必要とする、市街地向けの自動運転機能の普及に注力する方針を示している。ただし広報担当者によると、数年後には機能をより向上させたレベル3システムを改めて導入する計画だという。
ロイターは8月、ステランティスもまた、膨らむコストや技術的な壁、消費者の需要への疑念から、レベル3の開発を棚上げしたと報じた。
テスラの「フルセルフドライビング」機能は市街地でも利用できるが、ドライバーが前方から目を離すことは許されていない。イーロン・マスク氏率いる同社は、自家用車向けのアイズオフのレベル3製品を未だ市場に投入しておらず、その目標はあくまで完全自動運転の実現に据えられている。
テスラは小規模なロボタクシーのサービスを立ち上げており、26年の前半までには米国のいくつかの都市へと広げる計画だ。それはつまり、業界のリーダー、ウェイモと真っ向からぶつかり合うことを意味している。
自動運転の規制に詳しいサウスカロライナ大学のブライアント・ウォーカー・スミス法学教授によれば、レベル3の難しさは、人間の介入が必要だと自ら判断し、運転者に引き継ぎを警告し、運転者が実際に操作を引き継ぐまで運転を続行するだけの能力を備えたシステムを設計する点にあるという。
「その間に車は、道路を数百メートルも進んでしまう。最低でも6秒、たぶんもっと長い」と同氏は言う。「規制の観点からより合理的なのは、人々が実際に使って有用だと感じるだけの十分に広い運用条件のもとでレベル4を提供できるようにすることだ」
ゼネラル・モーターズ(GM)で自動運転プログラムに関わったストラテジストのジョエル・ジョンソン氏は、アイズオフは自動車会社にとって、コストと責任という重い課題を突きつけると指摘する。
同氏は「自動車メーカーが自動運転を戦略的に投入する理由があるとすれば、ウェイモと戦略的に対抗してけん制するか、初期費用やサブスクリプションという形でより多くの利益を得るかのどちらかだ」と述べている。
<自動運転で変わる責任の所在>
アナリストらは、アイズオフ技術への移行により、万が一の事故の際、自動車メーカーが責任を問われるリスクが飛躍的に高まると指摘している。
実際、25年のフォーダム大学のジャーナル「知的財産・メディア・エンターテインメント法」に掲載された論文でも、レベル3の技術が絡む事故において「ドライバーとメーカーのどちらが責任を負うのか」という法的な問題は、いまだ不透明なままだとされている。
同論文は、「社会が納得する法整備が早急に行われなければ、この技術が普及することはないかもしれない」と警鐘を鳴らしている。
一方、自動車メーカーがより高度な運転支援機能の導入を急ぐ背景には、中国メーカーの猛追がある。実際、中国政府は12月、レベル3の自動運転車を初めて認可している。
零跑汽車(リープモーター)やBYDといった中国ブランドは、すでに高度なレベル2の運転支援機能を標準装備として車両価格に組み込んでいる。今後、欧米の消費者が毎月の課金なしで同様の機能を求めるようになれば、自動運転技術を巡る世界規模の価格競争が勃発する可能性もある。
「これはグローバルなビジネスモデルを巡る戦争だ」。前出のアナリストのジョンソン氏は、そう語った。
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