最新記事

記憶術

先住民アボリジニの記憶術に、ホームズ流「記憶の宮殿」凌ぐ効果 豪研究

2021年5月28日(金)17時04分
青葉やまと

アボリジニの記憶術は、「記憶の宮殿」方式にもよく似ている......  35007-iStock

<オーストラリアの先住民であるアボリジニは、5万年続く文化のなかで高効率な記憶術を生み出した>

オーストラリアの先住民族であるアボリジニの文化は、地球上に現存する文化としては最も古い部類に属する。部族の重要な記憶は数万年ものあいだ、次の代へと口頭口伝で申し送られてきた。

少なくとも5万年以上のあいだ、アボリジニは唄や踊りなどの独自の文化を通じ、文字に頼ることなく重要な情報を継承してきた。彼らの伝統文化には、部族間の勢力関係や食料の入手場所など、生存に必要な複雑な情報が織り込まれている。

ところが、場合によってはこれよりも柔軟な即効性の記憶術が必要だ。当面必要な情報を素早く記憶に留めるべき場面で、唄を作っていたのでは間に合わない。そこでアボリジニは、独自の記憶術を発展させてきた。

その方法とは、現実世界のモノに記憶を結びつけるというものだ。よく慣れ親しんだ場所を歩き、目にした動植物の形状などをヒントに、記憶すべき項目が登場するストーリーを発想してゆく。後日この実体験を振り返ることで、歩いた経路と目にしたオブジェクトを思い出し、そこに結びついた記憶項目をもれなく順に思い出せるという。

シャーロック・ホームズ愛用の「記憶の宮殿」にも似ている

これは、ヨーロッパで編み出された「記憶の宮殿」方式にもよく似ている。記憶の宮殿とは、長年住んだ街や自分の家などを舞台に選び、そこに登場する特徴的な物に対し、記憶したいものを結びつけてゆくものだ。

例えば、「卵、ミネラルウォーター、消しゴム......」という買い物リストを丸暗記するよりは、「家の前で鶏が卵を産んでいる」「続いて勝手口を入ると、キッチンのテーブルにはミネラルウォーターのボトルが乗っている」「2階に上がると、子供部屋の机に消しゴムが転がっている」などと情景を描いた方が鮮明な記憶に残る。人間の脳は場所や風景などの記憶に長けており、この特性を応用したテクニックだ。

元々は古代ギリシャで発明されたと言われる記憶の宮殿は、とくに活版印刷の登場以前に重宝された。当時は手書きで本が複写されており、それゆえ書物は大変貴重なものであった。この時代の人々は書籍の現物を手元に残さなくともその内容をいつでも思い出せるようにと、記憶の宮殿を活用した暗記法に力を入れていたのだ。

近年では英BBC製作のドラマ『SHERLOCK/シャーロック』で取り上げられたことで一躍有名になった。『羊たちの沈黙』に登場するハンニバル・レクター博士もこの技術の実践者として描かれるなど、創作の世界でも注目度が高い。

アボリジニ式の記憶法はこれとよく似たものだが、想像のなかでイメージを膨らませる記憶の宮殿と異なり、実際に現場を歩いて脳に刻むことが大きな特徴だ。それだけに、より効果的なのだという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

台湾輸出額、2カ月連続で過去最高更新 米関税巡り需

ビジネス

独裁国家との貿易拡大、EU存亡の脅威に=ECBブロ

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

中国自動車販売、6月は前年比+18.6% 一部EV
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中