最新記事

哺乳類もお尻で呼吸できる、との研究結果 呼吸不全治療に役立つ可能性

2021年5月19日(水)20時00分
松岡由希子

「重篤な呼吸不全の患者の治療などに役立つ可能性がある」CAPTAIN_HOOK-iStock

<東京医科歯科大学統合研究機構の武部貴則教授らの研究チームは、マウスやブタも腸を用いて呼吸できることを示した>

ナマコやドジョウなど、水生生物のなかには、低酸素環境下でも肺やエラ以外の器官を用いて生存できるよう、ユニークな腸呼吸の仕組みを持つものがいる。しかし、哺乳類で同様のことが可能なのかについては、解明されていなかった。

マウスやブタも腸を用いて呼吸できる

東京医科歯科大学統合研究機構の武部貴則教授らの研究チームは、酸素ガスまたは酸素が豊富に溶けた液体を直腸から注入する腸換気(EVA)法を開発し、この手法により、マウスやブタも腸を用いて呼吸できることを示した。一連の研究成果は、2021年5月14日、学術雑誌「メッド」で発表されている。

研究チームはまず、マウスの直腸を通じて純酸素を投与するシステムを開発し、致命的な低酸素状態にあるマウスを用いて実験した。その結果、対照群のマウスは11分ですべて死んだが、純酸素を投与されたマウスは18分、粘膜剥離前処置を施されたうえで純酸素を投与されたマウスの75%は50分、生存した。

直腸から純酸素を投与するこのシステムは腸粘膜の剥離が必要となるため、特に重篤な患者では、臨床上、実行可能性に乏しい。そこで、研究チームは、炭素とフッ素で構成され、酸素溶解能が極めて高い化学物質「パーフルオロカーボン」に1分あたり1リットルの酸素を45分間溶かした液体をつくり、純酸素の代わりにこれを投与する手法を考案した。

マウスの実験では、この液体1ミリリットルを直腸から注入して、酸素濃度10%の環境下で対照群のマウスと比較した。その結果、この液体が投与されたマウスは対照群に比べて歩行距離が長く、投与から60分後の心臓左心室の酸素分圧(PaO2)も有意に高かった。

同様の有効性はブタでも認められた。ブタにこの液体を400ミリリットル投与したところ、明らかな副作用を生じることなく、動脈血中の酸素飽和度(SpO2)や酸素分圧(PaO2)の値が上昇した。

重篤な呼吸不全の患者の治療などに役立つ可能性

研究論文の責任著者である武部教授は、「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴って人工呼吸器や人工肺の需要が急増し、これらの医療機器の不足が深刻で、世界中の患者の生命が脅かされている」と指摘したうえで、「この新たな腸換気(EVA)法がヒトにも応用できれば、重篤な呼吸不全の患者の治療などに役立つ可能性がある」と述べている。研究チームでは、クラウドファンディングで資金を募り、さらなる研究活動をすすめる方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハンガリー首相と会談 対ロ原油制裁「適

ワールド

DNA二重らせんの発見者、ジェームズ・ワトソン氏死

ワールド

米英、シリア暫定大統領への制裁解除 10日にトラン

ワールド

米、EUの凍結ロシア資産活用計画を全面支持=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中