最新記事

感染症対策

アメリカの零細マスクメーカー、激安中国製品に押されて存亡の危機

2021年5月16日(日)11時36分
マスクを着けた女性

コロナ禍を機にマスクの製造に乗り出した米国の小規模メーカーが今、在庫の山を抱えて破綻の危機に直面している。ニューヨークで3日撮影(2021年 ロイター/Shannon Stapleton)

コロナ禍を機にマスクの製造に乗り出した米国の小規模メーカーが今、在庫の山を抱えて破綻の危機に直面している。原価を下回る中国製の安いマスクが、市場にあふれているためだ。

米マスク製造業協会はバイデン米大統領に宛てた書簡で、直ちに連邦政府の支援を得なければ60日以内に製造ラインの半分以上が休止に追い込まれ、数千人が職を失うと訴えた。

この協会を設立した小規模メーカー26社は、コロナ禍で深刻なマスク不足が発生した昨年、製造に乗り出したばかりだ。

11日に公開された書簡は「外国の不公正な貿易慣行に対抗するため、緊急の支援を要請する。この慣行により、米国製の個人用防護具(PPE)マスク製造業界の存続、ならびに将来のパンデミックに備える米国の取り組みが脅かされている」と訴えた。

同協会によると、26社の年間生産能力はサージカルマスクが37億枚、より防護力の高いN95マスクが10億枚超。現在売れ残っているのはサージカルマスクが2億6000万枚、N95が2000万枚だ。

サージカルマスクは1年前、50枚入りが1箱50ドル以上で売られていたが、今では5ドルで買える。

同協会によると、サージカルマスク1枚の原価は0.03―0.06ドルだが、中国から輸入された製品は現在1枚平均0.01ドルで売られているのが現状。「中国は実際の原価を大幅に下回る価格でマスクを販売し、米国市場で事実上のダンピング(不当廉売)を行っている」という。

この状況が続けば、60日以内に生産の54%が、1年も経過しないうちに84.6%が休止に追い込まれると訴えている。協会の説明では、これらのメーカーは昨年7800人以上の雇用を生み出したが、その約3分の1が既に失業した。

国内メーカーを守れ

バイデン政権は、国内PPEメーカーを支える措置を検討すると約束している。国内メーカーへの補助も選択肢だが、まだ検討の途中だ。

コロナ禍の間にマスク製造に手を広げた素材メーカー、ショーマット社のジェームズ・ワイナー最高経営責任者(CEO)は「危機の最中には、2度とPPE不足を起こしてはならないとだれもが言っていた。それでも営利目的の企業は、態度を変えていない。卸売業者は相変わらず、価格が最も安い製品を仕入れている」と憤る。

一方、ロサンゼルス郊外に新たなマスク工場を設立したダン・アイザキー氏によると、製造が比較的簡単なサージカルマスクのメーカーの方が厳しい試練に直面している。

同氏の企業は、より複雑なN95マスクを製造しており、今も事業は拡大中。とはいえ「バイデン政権は今後、われわれが事業を持続できるよう数々の措置を講じるだろう」と信じている。

同協会は政府に対し、1)連邦政府および、連邦政府から資金提供を受けている機関には、国内素材調達に関する政府規則を順守した国産マスクの購入を義務付け、政府は基準を満たさない在庫を処分する、2)連邦政府から資金提供を受けている病院に対し、PPE支出に占める国内製品の比率を2023年までに40%以上とするよう義務付ける――ことなどを提言した。

同協会はまた、昨年新設された工場に眠る2億6000万枚のマスク在庫を政府が買い上げることも検討するよう要求している。

(Timothy Aeppel記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、人質遺体を新たに引き渡し 停戦合意履行巡る

ビジネス

米国株式市場=続伸、ダウ664ドル高 利下げ観測高

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、精彩欠く指標で米利下げ観測

ワールド

ウクライナ、和平合意へ前進の構え 米大統領「意見相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中