最新記事

入管法改正案

「おもてなし」の裏で「ひとでなし」──ラサール石井さんが難民いじめを批判、元五輪選手も入管に危惧

2021年5月11日(火)11時49分
志葉玲(フリージャーナリスト)

"おもてなし"と"ひとでなし"

今月6日の会見では、弁護士や支援団体関係者の他、ラサール石井さんもマイクを握った。ラサールさんは東京オリンピック招致の際の「おもてなし」のアピールにかけ、「表では"おもてなし"、片方では入管で"ひとでなし"」と日本政府の矛盾ぶりを皮肉った。さらに「難民認定申請を99%却下するのは100%受けつけないに等しい」と日本の難民排斥ぶりに苦言を呈した。

shiba20210511111103.jpg
ウィシュマさんの妹達もオンラインで会見に参加、発言しているのはラサールさん (筆者撮影)

実際、東京五輪は、難民その他帰国できない事情のある外国人の人々に対する入管側の姿勢にも大きな影響を与えている。2018年4月26日付けの警察庁・法務省・厚生労働省の三省庁による合意文書『不法就労等外国人対策の推進(改訂)』では、"実際には条約上の難民に該当する事情がないにもかかわらず、濫用・誤用的に難民認定申請を行い、就労する事案"があるとした上で"政府は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて「世界一安全な国 日本」を作り上げることを目指している"として取り締まり強化に積極的に取り組むと書かれているのだ。

なお、「難民認定申請の濫用」は法務省・入管の常套句であるが、日本の難民認定審査の異常さを棚に上げての悪質なレッテル貼りだろう。ミャンマーやシリア等の明らかに危険な状況から逃げてきた難民認定申請者すら認定されないことが多く、他の先進国では大勢、難民認定されているトルコ籍クルド人にいたっては、過去一度も認定されないのが日本の難民認定審査の現実だ。

shiba20210511111104.jpg
三省庁の合意文書(部分) オリンピックに向けての治安維持のため、難民申請者を含む在日外国人の取締りを強化 網掛け部分は筆者

今月6日の会見には、バルセロナ五輪(1992年)のテコンドー日本代表であった高橋美穂さんもメッセージを寄せた。高橋さんは「ウィシュマさんの事案で国際基準からかけ離れた日本の入管行政、難民認定率の低さを知った」「今必要なのは人間の尊厳」と延べ、入管法「改正」案について「根本からの見直しを求めます」と訴えた。

入管法の改正案は、現在、衆院本会議で審議されており、政府与党は早期の採決を目指しているが、野党側はウィシュマさん事件の真相もまだ明らかになっていないと反発を強めている。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

[執筆者]
志葉玲
パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。オフィシャルウェブサイトはこちら

ニューズウィーク日本版 非婚化する世界
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月17日号(6月10日発売)は「非婚化する世界」特集。非婚化と少子化の波がアメリカやヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中