最新記事

映画

ホラー&サスペンスの金字塔『羊たちの沈黙』30年越しの課題

The Silence of the Lambs at 30

2021年4月1日(木)18時00分
H・アラン・スコット

「バッファロー・ビルは服装倒錯でサイコパスな連続殺人鬼の典型で、その系譜は1960年の『サイコ』あたりまでさかのぼることができる」と、GLAAD(同性愛者の名誉を守る同盟)のトランスジェンダー・リプレゼンテーション・ディレクター、ニック・アダムスは言う。

「91年や、さらには現代でも映画の観客は基本的に、トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の女性と、服装倒錯のサイコパス、悪辣な目的のために女性のふりをする男性、パフォーマンスとして女装するシスジェンダー(心と体の性が一致している人)の男性をひとくくりにし、混同している」

アダムスは、映画制作者の意図に関係なく、バッファロー・ビルは非常に有害な影響をもたらしたと言う。「『羊たちの沈黙』を見る人は、ハリウッドがトランスジェンダーや(典型的なジェンダーの規範に当てはまらない)ジェンダー・ノンコンフォーミングの人を悪者や被害者、からかわれる変人として描いてきた歴史を認識するべきだ。そのことは、ネットフリックスのドキュメンタリー映画『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』を見ればよく分かる」

傷つけ続けてきた歴史

アダムスによれば、間違ったステレオタイプのキャラクターが何十年もの間、トランスジェンダーを傷つける文化を築いてきた。『羊たちの沈黙』も、意図的かどうかにかかわらず、その歴史の一部だと認めることが重要だろう。

クィア(性的少数者)のホラー映画に関するドキュメンタリーに携わった映画制作者のサム・ワインマンもこう指摘する。「クィアの悪役がいることが問題なのではない。クィアの悪役しかいないことが問題なのだ。クィアは殺人者の役か、映画が終わる前に死ぬ役ばかり。クィアのヒーローはいない」『羊たちの沈黙』に対するクィアからの批判は昔からある。しかし「クィア表現の悪い例を全て排除すると、クィアの描写がなくなってしまう。

『羊たちの沈黙』のような作品を実際に見て、どうすればもっとよくできるのか、考えなければならない」

批判はさておき、『羊たちの沈黙』が画期的な作品だったことは間違いない。『アザーズ』(01年)、『ゲット・アウト』(17年)、『ヘレディタリー/継承』(18年)など、その後の多くのホラー映画に大きな影響を与えている。

「何か魔法のようなものがあると感じた。ただただ、魔法だった」と、フォスターは言う。「もう誰も、あそこには到達できないだろう」

ニューズウィーク日本版 健康長寿の筋トレ入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月2日号(8月26日発売)は「健康長寿の筋トレ入門」特集。なかやまきんに君直伝レッスン/1日5分のエキセントリック運動

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米百貨店コールズ、通期利益見通し引き上げ 株価は一

ワールド

ウクライナ首席補佐官、リヤド訪問 和平道筋でサウジ

ワールド

トランプ政権、学生や報道関係者のビザ有効期間を厳格

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部に2支援拠点追加 制圧後の住
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 10
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中