最新記事

映画

ホラー&サスペンスの金字塔『羊たちの沈黙』30年越しの課題

The Silence of the Lambs at 30

2021年4月1日(木)18時00分
H・アラン・スコット
『羊たちの沈黙』の主役3人

『羊たちの沈黙』はその後の作品にも大きな影響を与えた(手前からクラリス、レクター、 スコット・グレン演じるジャック・クロフォード捜査官) Michael Ochs Archives/GETTY IMAGES

<性的少数者のステレオタイプな表現に沈黙してきた珠玉の名作>

『羊たちの沈黙』は1991年2月14日に全米公開されたときから、普通のホラー映画でないことは明らかだった。「電撃的なサスペンス体験だ」と当時、本誌の映画担当デービッド・アンセンは書いている。「恐怖を好む人にはたまらない、とびきりの怖さだ」

原作はトマス・ハリスの88年の同名小説。FBI捜査官の訓練生クラリス・スターリング(ジョディ・フォスター)が、連続殺人犯「バッファロー・ビル」を追跡するため、ソラマメとキャンティをこよなく愛する連続猟奇殺人犯の元精神科医、ハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)と対峙する。

アカデミー賞ではホラー映画として初の作品賞のほか、主演男優賞、主演女優賞、監督賞、脚色賞を受賞。主要5部門を制した作品は、1934年の『或る夜の出来事』と75年の『カッコーの巣の上で』を含む3つしかない。

フォスターはつい先日、『羊たちの沈黙』は自分にとって最高の作品だと本誌に語っている。「ジョナサン・デミ(監督、故人)は愉快で、子供みたいな人だった。あれほど芸術的で心に響くのに、やり過ぎた作品にならなかったのは、彼が完璧に仕上げたから」

批評家の評価も高く、世界での興行収入は91年公開作品の中で5位。普通ならすぐにも続編が出そうなものだが、そうはいかなかった。

「私たちはみんな作りたいと思っていた。トマスは新作を書いていて、もうすぐ出来上がる、誰にも見せないと言い続けていた」と、フォスターは言う。「みんな10年待った」

2001年、ついに続編『ハンニバル』が公開されたが、引き続き出演したのはレクター役のホプキンスだけ。クラリス役はジュリアン・ムーアが演じた。フォスターは自分が出演しなかったことについて、今も公の場で語っていない。

続編は『羊たちの沈黙』ほほどのヒットにはならなかったが、「ハンニバル・シリーズ」はテレビで成功している。

LGBTQがないまぜに

ハリスの小説3部作『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』『ハンニバル』から生まれたテレビドラマ『ハンニバル』は、米NBCで2013年から3シーズン放送された。

今年2月から米CBSで放送が始まった『クラリス』は、『羊たちの沈黙』の1年後が舞台。主演のレベッカ・ブリーズは本誌に、自身が演じるクラリスは「史上最もうまく作られたキャラクターの1人」だと語っている。

『羊たちの沈黙』は一般に、女性にとっての勝利と考えられている。ホラーやスリラーとしてだけでなく映画全般として、当時にしては珍しく、クラリスという女性を物語の中心に据えたからだ。しかし一方で、LGBTQ+(同性愛など全ての性的少数者)の描き方は批判されてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中